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「最近、料理中にフライパンを振っただけ、スマホでメールを打とうとしただけで肘に激痛が走る、ペットボトルの蓋を開けるのすら大変。そういえば、周りでも同じような声をよく耳にするけど……」

 

50代の主婦Aさんはこうつぶやく。

 

記者の周りでも、握力低下や腕の痛みに悩まされる更年期の女性たちが多くいる。

 

「近年、指や手首、肘の痛みを訴える人が急増しています。特に女性の、しかも更年期世代に目立ちます」

 

こう話すのは運動機能評論家でアスリートゴリラ鍼灸接骨院院長の高林孝光さん。

 

「この正体は腱鞘炎です。指や手首や肘に発生する腱鞘炎は、昔はピアニストや美容師、大工など手を使う職業の人に多い職業病でした。少し前は『テニス肘』と呼ばれ、腕の外側の筋肉に負担がかかることで起こる症状でしたが、スマホの普及により『スマホ肘』として知られるようになり、今では“国民病”ともいえます」

 

腱鞘炎とは腱を覆う腱鞘に起こる炎症のことで、強い痛みや、熱を伴う。腱鞘はトンネル状になっていて、その中を腱が通っており、体を動かすと腱鞘の中の腱が動く仕組みになっている。

 

■本来なら行わない動作の繰り返しで「腱鞘炎」に

 

体の動きがより激しくなったり、動かす回数が多くなると、腱と腱鞘がこすれあって炎症を起こすようになり、やがて痛みが生じる。

 

「腕にある腱は指から肘まで1本のコードのようにつながっています。指を動かすと、手の甲から肘まで腱が連動して動いているのがわかるでしょう。このコードが傷んでいる状態が『スマホ肘』(腱鞘炎)です」(高林さん、以下同)

 

パソコン使用時、キーボードやマウスの操作で手首や指を上下に動かすが、この動きは古来の人間の動きにはない動作だという。

 

スマホも同様で片手でスマホを持ち、親指でスクロールをしたり、入力するという動作も本来、人間の動作にはないものだ。だから、その動作を繰り返すことで、腱と腱鞘に負担がかかり、腱鞘炎が起きやすくなる。

 

さらに主婦の場合は、家事をすることでも悪化するのだという。

 

たとえば、重たいフライパンを片手で持ってそれをお皿に移すときに傾ける、鍋の蓋をつまんで手を返す、雑巾を絞る……といった動作がしにくい、あるいはそうした動作をとると腕に激痛が走るという人は要注意。

 

「硬いものを切るときに親指や人さし指を包丁の峰にあてて押し切ろうとすると痛い人も同様です。痛む場所は指、手首、肘に出やすいのですが、どこに現れるかはその人の癖や習慣によって異なります」

 

ひどくなると、シャツのボタンが留められない、スカートやズボンの着脱に苦労するなど、自分の身の回りのことをするのにも苦労が伴うようになる。

 

若いときは、腱鞘炎になってもその部位を休めることで、自力で回復することができるのだが、更年期をすぎて女性ホルモンが減少すると、自力で治すことが難しくなるのだそう。

 

「エストロゲンは女性の肌を美しくする働きのほか、腱や腱鞘の柔軟性を保つ働きもあります。ところがエストロゲンが減少すると、腱や腱鞘の柔軟性が低下することで、腱鞘炎になりやすく、また治りにくくもなるのです」

 

腱が突っ張ると、つい腕のストレッチをしがちだが、実は、ストレッチは禁物だと高林さん。

 

「硬くなって縮んだ筋肉を無理やり引っ張ろうとしているようなもので、ストレッチをすると、より炎症部分を傷めてしまいます。間違ったセルフケアをしていては、なかなか改善しません。むしろ筋肉を緩める軽いマッサージをおすすめします」

 

図のように人さし指、中指、薬指の手の甲側の第2関節から手の甲までをもう片方の指の腹でやさしくマッサージする。しばらくマッサージをすると、腱がほぐれ、痛みが和らぐのがわかる。

 

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