今年は夏に入って以降、目の異常なかゆみを訴えて、眼科を受診する人が増えているのだという。その原因のひとつが、人間の顔に生息する〈まつげダニ〉だ。
「まつげダニは、〈デモデックス〉ともいいます。人のまつげの根元付近に常に生息する、顔ダニの一種です」
こう説明してくれたのは、羽根木の森アイクリニック院長の井上佐智子先生だ。
まさか顔に、しかも目に近いまつげの根元にダニがすんでいるとはーー。
この事実には驚いてしまうが、少数が生息する分には、さほど心配する必要はない。正常な状態では、人間の皮脂を食べて分解することで、肌を健康な状態に保ってくれる働きがあるのだ。
しかし、ダニが異常増殖することで目の疾患の原因となってしまう。
「暑さなどで皮脂が過剰に分泌され、目元の不衛生な状態が続くと、まつげの根元付近でまつげダニが異常増殖します。つらい目のかゆみや、炎症などの症状を引き起こします。今年は猛暑だったからか、特に相談が増えている印象です」(井上先生、以下同)
過剰なまつげダニは、ドライアイや、結膜炎、角膜炎、繰り返すものもらい、眼瞼皮膚炎の原因にもなってしまうのだという。
「特に、目のまわりが赤くなり、強いかゆみを伴う眼瞼皮膚炎が厄介です。原因はさまざまですが、なかなか完治しない難治性眼瞼皮膚炎は、まつげダニが原因である可能性があります。特定するためは、まつげを顕微鏡で目視する検査が必要です。
眼瞼皮膚炎は、ステロイド薬を処方される場合がありますが、ステロイドで肌の免疫が弱くなり、皮脂が増えると、それがまつげダニを増殖させてしまうこともあります。よかれと思って治療をしても、症状を長引かせることになりかねません」
さまざまな目の疾患との関係が深いまつげダニ、危ないのは、意外にも、メークをしない人なのだそう。
「アイメークをする人は、目のキワをクレンジングなどで洗眼する習慣がありますよね。 実はそういった人たちよりも、アイメークをあまりしない人、つまり、“目まわりに関心の薄い”人が危ないです。男性、高齢者なども要注意。目もとの汚れをしっかり落とす、という意識が薄いので、知らぬうちに皮脂がたまりやすくなっています。
メークを落とさないのは言語道断ですが、化粧をしていても、きちんと汚れを落としきっていれば大きな問題はありません」