クマが冬眠から目覚めて活動を開始する時期になった。4月に入り、福島県内や長野県内、新潟県内などでクマの目撃情報が相次いでいる。
環境省によると、2025年度(2025年4月~2026年3月)のクマの出没情報は5万359件。これまで最多だった2023年度(2万4348件)の倍以上となった。被害者数は238人で、うち13人が亡くなった。全国クマ出没マップ『クママップ』によると、4月19日現在、過去30日で833件のクマの目撃情報が寄せられており、これらの “異常出没” は今年も続くとみられている。
これまでは、ブナなどのドングリが不作の年に、栄養不足によって飢餓状態になったクマが人里に降りてくると考えられてきた。しかし、そうした“定説”が誤りだという研究論文を島根県山中間地域研究所センターの澤田誠吾鳥獣対策科科長らと東京農工大学らの研究チームが発表した。澤田科長が、こう話す。
「研究では2003~2018年に島根県内で捕獲された651頭のツキノワグマの皮下脂肪、内臓脂肪、骨髄脂肪の3つの脂肪を計測しました。この間で2004年、2008年、2010年、2016年はドングリが不作でしたが、ドングリの不作年に捕獲されたツキノワグマの栄養状態は、悪くはなかったんです。
餌資源が豊富な年に捕獲されたクマと、餌資源が少なく大量出没した年に捕獲されたクマの栄養状態を比べると、餌資源が少ない年に捕獲されたクマのほうが栄養状態がよかったというのが今回の結果です。
山に餌がないため栄養状態が悪く、飢餓状態のクマが人里に出没しているわけではないということが明らかになりました」(澤田科長、以下同)
人里に現れるクマが飢餓状態ではないというのは驚きの結果だ。
「ドングリが不作で大量出没した年の前年はドングリが豊作だったので、前年の秋に蓄えた脂肪を一年かけてバランスよく使っている。
今回の研究で、クマはまずは皮下脂肪を使用し、次に内臓脂肪、最後に骨髄内脂肪を使うことが示唆されたことも、大きな成果だと思います。
クマは絶食状態で冬眠中には使用しやすい皮下脂肪を優先的に使用し、内臓脂肪と骨髄脂肪を、食べ物が少ない厳しい季節である春から夏に向けて大切なエネルギー源として温存していると考えられます」
これらの研究結果は、「2003年からの16年という長期的なモニタリングデータによって分析が可能になった」と澤田科長は話す。
クマが人里に降りてくるのは栄養状態が悪いことが原因ではないが、ドングリが凶作の年にはクマの行動範囲が大きくなるというのは先行研究でわかっており、ドングリの凶作が大量出没のトリガーになっていることは間違いないという。
ただし、クマが生活圏に出没するのは、栄養状態がいいか悪いかは関係なく、収穫されない柿や栗などの果実が“誘引物”となっていると注意を促す。
「クマも、最初から柿を食べていたわけではないんです。食べられるのかどうかを試し、『これは美味しい』と学習していくんです。柿は自然の山の中にはありませんし、クマにとっては魅力的な餌になります。
ここに来れば美味しいものが食べられると学習したクマは、その場所に執着します。親子なら子グマにもこれは食べられる、美味しいものだと伝わっていくので、世代交代してもその場所に出没し続けることになってしまいます。
人里をクマの餌場にしないためにも、収穫しきれない大きな柿の木は枝を剪定(せんてい)して収穫できるサイズにする、木にクマが登れないように電気柵やトタンを巻く、空き家などで放置されている木で許可が得られれば思い切って伐採するなど、誘引物を管理することが最も重要だと思います」
人間側が果実の木などを管理し、クマに美味しいものが食べられる場所だと学習させないことも、クマとの遭遇を防ぐ大事な方策だ。
画像ページ >【写真アリ】1カ月ですでに800件以上!クマ出没マップ(他1枚)
