西成の劇団むすび「看板女優」になった92歳でゲイのおじいちゃん
画像を見る 「長谷さんは魅力的です」と松本さん(右)

 

■むすびと出会って西成に引っ越し、生きる世界が変わった

 

長谷さんと、むすびとの出会いは3年前、18年の夏だった。

 

「当時住んどった東大阪に、むすびが紙芝居劇をやりに来たのよ。見たらな、5~6人が役柄決めて演っていて。『ちょっと変わった紙芝居やな』と。しかも、けっこうな年の人らが、文句言い合いながらも、何に縛られることもなく、何やらとっても楽しそうで。あぁ、これやったら、僕もいけるん違うか、そう思ったのよ」

 

自分も参加したい、という思いが募った。ここならありのままの自分をさらけ出せるのではないか、そう思えたのだ。

 

『自分はゲイですが入れてもらえますか?』89歳のカミングアウトだった。そうして加入したむすびでは、週1回、ミーティングがある。そこで、長谷さんは思い切って西成に引っ越しもした。その西成では、新たな出会いも待っていた。

 

今年春、「なりたい自分になるための舞踏場(ボールルーム)」をコンセプトに開催された、その名も「カマボール」。長谷さんも芸者になりきり出演した同イベント、その実行委員長を務めたのが松本渚さん(28)。大阪大学大学院生で社会の諸問題を、問題の起こっている現場に寄り添い考える「臨床哲学」という分野の研究に取り組んでいる。

 

「僕のことはな、全部、渚さんにまかしてんの。僕の後継者や」

 

と、長谷さんからの信頼も厚い。

 

「いえいえ、後継者だなんてとんでもない。私は週1回、長谷さんのお宅にお邪魔して、おしゃべりしてるだけです。長谷さんはこんな年の離れた私の話も真剣に聞いてくださる、素敵な方なんです」

 

松本さんの言葉を横で聞いていた長谷さん。「僕もちょっとは魅力、あるわよね」とおどけるように言って、笑みを浮かべた。

 

「長谷さんの、こういうところもかわいらしくて大好きなんです。それに長谷さん、何事にもすごく前向きなんですよ」

 

孫ほど年の離れた女性の言葉に、「そら、そうよ」と長谷さん。

 

「僕は小学校しか出てないでしょ。その分、人より長く働いてきたから、ちょっとだけ、もらえる年金、多いねん。だから定年後は働かんでも、年金だけで暮らしてこられた。それに、ずっとひとりやったから、いまもこうして気楽に、好きなことができてるのよ」

 

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