■むすびと出会って西成に引っ越し、生きる世界が変わった
長谷さんと、むすびとの出会いは3年前、18年の夏だった。
「当時住んどった東大阪に、むすびが紙芝居劇をやりに来たのよ。見たらな、5~6人が役柄決めて演っていて。『ちょっと変わった紙芝居やな』と。しかも、けっこうな年の人らが、文句言い合いながらも、何に縛られることもなく、何やらとっても楽しそうで。あぁ、これやったら、僕もいけるん違うか、そう思ったのよ」
自分も参加したい、という思いが募った。ここならありのままの自分をさらけ出せるのではないか、そう思えたのだ。
『自分はゲイですが入れてもらえますか?』89歳のカミングアウトだった。そうして加入したむすびでは、週1回、ミーティングがある。そこで、長谷さんは思い切って西成に引っ越しもした。その西成では、新たな出会いも待っていた。
今年春、「なりたい自分になるための舞踏場(ボールルーム)」をコンセプトに開催された、その名も「カマボール」。長谷さんも芸者になりきり出演した同イベント、その実行委員長を務めたのが松本渚さん(28)。大阪大学大学院生で社会の諸問題を、問題の起こっている現場に寄り添い考える「臨床哲学」という分野の研究に取り組んでいる。
「僕のことはな、全部、渚さんにまかしてんの。僕の後継者や」
と、長谷さんからの信頼も厚い。
「いえいえ、後継者だなんてとんでもない。私は週1回、長谷さんのお宅にお邪魔して、おしゃべりしてるだけです。長谷さんはこんな年の離れた私の話も真剣に聞いてくださる、素敵な方なんです」
松本さんの言葉を横で聞いていた長谷さん。「僕もちょっとは魅力、あるわよね」とおどけるように言って、笑みを浮かべた。
「長谷さんの、こういうところもかわいらしくて大好きなんです。それに長谷さん、何事にもすごく前向きなんですよ」
孫ほど年の離れた女性の言葉に、「そら、そうよ」と長谷さん。
「僕は小学校しか出てないでしょ。その分、人より長く働いてきたから、ちょっとだけ、もらえる年金、多いねん。だから定年後は働かんでも、年金だけで暮らしてこられた。それに、ずっとひとりやったから、いまもこうして気楽に、好きなことができてるのよ」