加えて、ホウ酸水による腐食のリスクもあるという。
「西日本の原発に多い加圧水型という原子炉は、中性子線を吸収しやすいホウ酸水で原子炉を冷やしています。しかし、炭素鋼はホウ酸水に弱いので炭素鋼の表面にステンレスを肉盛り溶接してコーティングしていますが、どうしても隙間からホウ酸水が染みこみ、経年腐食しやくなるのです」
このほかにも、原子炉内を毛細血管のように張り巡らされている膨大な数の電子ケーブルなども経年脆化していくが、すべて取り替えることは困難だという。
「原子炉には蓋と胴部があり、いずれも劣化が進みます。三菱製の原子炉の蓋は劣化を理由にどの発電所も一度取り替えているのですが、原子炉胴部は即死レベルの放射線量なので取り替えが困難。現行法では40年ルールになっていますが、本来、原発の寿命と言われているのは30年くらい。炉を交換できないなら、この程度で廃炉にするのが合理的なのです」
実際に、製造から30年を超えたころから発電所内のトラブルが急増している、というデータもある。
「圧力容器の鉄板にわずかでも腐食が生じれば、そこから一気に亀裂が広がって冷却水が漏れ、原子炉が冷やせなくなってしまいます。そうなると炉心溶融が進み、最悪の場合は原子炉が爆発して、福島第一原発事故とは比べものにならないほど大きな事故になる可能性もあるのです」
これまでも、原発内に脆くなった部分がないかの検査は行われてきた。しかし「その検査にも限界と問題がある」と指摘するのは、「老朽原発40年廃炉・名古屋訴訟」を闘う弁護士の小島寛司さん。
「原子炉の中に、いくつか試験片を入れておいて、10年ごとくらいにそれを取り出し、圧力をかけるなどして金属の脆性を検査し、安全性を確認しています。しかし、そのデータが圧倒的に少ないのです。すでに40年を超えて運転を続けている美浜原発3号機の場合、稼働後約40年間で得られている破壊靱性試験のデータは、わずか12回分。それも、直近の検査では溶接金属部分のみチェックし、原子炉本体の母材については検査していないなど、極めて不十分なものでした」
本来、データを適切に提出させて審査すべき規制委員会も、それをせずに稼働を許可しているという……。
加えて、現存する原発にはそもそも“型が古い”という根本的な問題もある。
「’11年に事故を起こした福島第一原発は、当時、稼働から間もなく40年を迎える老朽原発でした。
そのため型が古く、原子炉を冷却できなくなったときに作動する非常用配電盤の設置場所が、ほかの電源とすべて同じフロアに設置される設計だった。そのため津波でいっせいに機能を失ってしまったのです」