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「コロナの濃厚接触や感染で、看護師などの職員が常時1割ほど欠勤する状況が続いていることに加え、高齢で介護が必要な患者さんの入院が多いので、かなりひっ迫している状況です」

 

こう語るのは岩手県・盛岡赤十字病院院長の久保直彦さん。盛岡赤十字病院では、人員不足から手術や検査を制限する状況にまで至っているという。それと並行する形で、救急患者の受け入れ要請は増えている。

 

「岩手県は病院が少ないので、ひとつの病院が受け入れを断ると、2時間ぐらいかけて別の病院に運ぶ必要が出てきます。なので、これまでは、どこの病院も必ず受けてくれるのが普通でした。救急隊が病院に電話をかけると、ほとんど1回の電話で受けてくれるというのが岩手県だったんです。

 

それが今は、4回以上病院に電話した、もしくは30分以上その場にとどまった、という救急搬送困難事案が年400件以上発生しています」(前出・久保院長)

 

消防庁のデータによると、岩手県では令和4年1月3日から、12月25日までで、救急車の到着後も搬送先が決まらない救急搬送困難事案が706件も発生しているのだ。

 

このような窮状は全国で発生している。栃木県にある自治医科大学附属病院でも、盛岡赤十字病院のように職員の感染や濃厚接触が相次ぎ、100名近いスタッフが出勤停止に。救急医療の受け入れ態勢は厳しいものになっているという。同病院の救命救急センター副センター長の米川力医師が語る。

 

「第8波では、比較的軽症の方が多く、コロナによる重症病床の使用率は幸い上がってきてはいません。けれども、軽症や中等症であっても、高齢の方ですとどうしても元々のご病気があって、その悪化によって、救急車を呼んだり、医療機関を受診したりする方がいらっしゃいます。そこにスタッフ不足も重なっているのでひっ迫してしまうのです」

 

救急医療を行う病院は地域の中で「一次救急」「二次救急」「三次救急」に分かれており、三次救急にいくほど、傷病者の症状が重くなる。自治医科大学附属病院は、主に緊急度や重症度の高い患者を受けいれる三次救急の役割を請け負ってきた。

 

「そこまで重症ではない患者さんは、通常、二次救急の医療機関で対応します。しかし、患者さんが増えすぎて二次救急では受け入れきれなくなっているわけです。そうすると、その患者さんは、三次救急の方に流れてきます。

 

こうして三次救急を行う医療期関に重症ではない患者さんが集まってしまうと、本来受けなくてはいけない重症の患者さんが受けられなくなってしまう。

 

現在はまさにそのような状況になっていて、周辺の医療圏でも同じことがおきています。そのため、県外からの受け入れ要請もきてしまっているんです」(前出・米川医師)

 

このような医療ひっ迫は、これまでの波の状況とは異なっていると指摘するのは、国立病院機構近畿中央呼吸器センターでコロナ対応にあたる呼吸器内科医の倉原優さん。

 

「第3波、第4波、第5波は、本当に目の前で患者さんが倒れていくような感覚、第6、7波では医療従事者がいなくなるぐらい院内感染が広がっていました。第8波の今は、ワクチン接種者も多くなってきたので、バタバタ人が倒れていくという感覚ではありません。

 

ただその一方、第8波の今、入院してくる患者さんはほぼ寝たきりです。そのため2?3時間に1回はオムツ交換をし、褥瘡ができないように体を動かし、食事の介助をし、とものすごくマンパワーが必要です。また、介護施設では吸痰など医療行為が制限される場合も多く、退院のめどが立ちづらい。これらが、医療ひっ迫の原因となっています」

 

高齢者で基礎疾患があり、すでに状態の悪い人がコロナに感染すると、あっという間に、医療が必要な状態まで悪化してしまうという。

 

国立遺伝学研究所教授で世界的な分子生物学者の川上浩一さん(理学博士)はこう指摘する。

 

「問題は、感染が広がりやすい高齢者施設で、感度の低い抗原検査が行われていることです。ウイルス量が十分増えていない感染初期や、療養解除の時期の場合、抗原検査では半分くらいすり抜けて、それが感染を広げていると考えられます。PCR検査も、いまは1時間程度で結果が出るものもあるので、リスクの高い高齢者施設や病院では、抗原検査より感度の高いPCR検査を実施して感染拡大を抑えるべきです」

 

実際に、介護施設で発生したクラスターの件数は、第7波を越えて最大になっている。

 

現在、新型コロナの感染症法上の分類を「2類相当」から、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に引き下げる検討が行われている。引き下げにより医療ひっ迫が解消されるのではとの声もあるが――。

 

「そう簡単な話ではありません。さすがに病院内では、他の患者にコロナを感染させたというのは防ぎたいので、院内ではゼロコロナ対策は続くでしょう。感染者や死者が社会である程度容認されるなら、話は別ですが……」(前出の倉原医師)

 

前出・盛岡赤十字病院院長の久保直彦さんは、できるだけ感染を広げないような行動を、と訴える。

 

「体調が思わしくないと感じたら、すぐ仕事や学校を休むなど、感染拡大の防止に努めていただけたらと思います」

出典元:

WEB女性自身

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