■増産分を政府が買うなどの対策が必要
増やせと言っておきながら、今度は減らせと真逆の対応をとる。行き当たりばったりともいえる政策で残るのは、酪農家の借金と、増産できないのに拡大した牛舎だ。
「本当はもっと牛乳を生産して売り上げを伸ばしたいのです。頑張って事業を拡大した酪農家ほど、厳しい状況に置かれています。今、減産に舵を切っても、いずれ増産するときがくるはずです。でも、そのとき増産を呼びかけても、もう応じられない酪農家は多いはずです」(浅野さん)
こうした酪農家を振り回す国の政策に怒りを覚えているのは、前出の鈴木さんだ。
「過剰生産の誘導をしておきながら、北海道では生乳があまるので14万トンの牛乳を減らしなさいという。一方で生乳に換算して14万トン分に及ぶ乳製品を、海外から輸入しています。本来なら輸入義務はないのに、諸外国からのクレームを恐れて、無理に買っているのです。まずは輸入をやめるべきです」
また、農家ではあまった生乳を廃棄するのではなく、日持ちのする脱脂粉乳を作って対応していたが、その在庫も、もはや抱えきれないという。
「脱脂粉乳の在庫処分のためとして、赤字に苦しむ酪農家に負担金を出させている。その額は北海道の酪農家だけで350億円にものぼるという、異常事態です」(鈴木さん)
現状をいち早く改善するためにも、抜本的な対策を早急に打つ必要がある。
「1kg絞るごとに30円の赤字が出るなか、昨年11月、飲用向けの乳価は1kgあたり10円あがり、令和5年度も10円あがる見通しですが、まだ赤字は解消しません。消費者の負担が増えすぎないように、国から、少なくとも1kgあたり10円の補助が求められます。酪農家には無利子無担保の長期融資をすることも、当面の赤字経営をしのぐ対策になるでしょう。また、牛乳や乳製品の生産を抑制するのではなく、増産した分は政府が買い取り、フードバンクに納めたり、加工品を海外に輸出するなど“出口”をしっかり作ることです」(鈴木さん)
瀬戸際まで追い込まれている酪農家を救うためには、手厚い国の援助が必要なのだ。
「現状が1年も続けば、廃業する酪農家が激増するでしょう。子供たちの健康を守る牛乳が食卓から消えてしまいます。けっして絵空事ではないのです」(鈴木さん)
“自助”では到底まかなえない赤字。酪農危機を止め、私たちの食卓を守るためにも、政府には早急な対応が求められる。