いわゆる“オレオレ詐欺”に代表される特殊詐欺。その被害は年々増加。警視庁によると、令和6年8月現在の特殊詐欺の認知件数は、約1万2300件、被害額は約350億円(前年同比+28.9%)にのぼっている。被害は、東京・大阪など大都市圏に集中している。
10月初旬、都内在住の本誌記者の携帯にも、こんな電話が入った。
「警視庁ですが、○○さんですか? 先日、“特殊詐欺”の犯人グループが宮崎県で逮捕されました。そのアジトから、あなた名義のキャッシュカードが見つかりました」
平日の午前8時過ぎ。発信は、+80から始まる海外(台湾)からだ。いかにも怪しい。
警視庁を名乗る相手は、「○○銀行の口座をお持ちですね。○○支店で、口座番号の下4桁は○○○○ですか?」と尋ねてきた。
たしかに記者は、該当の銀行に口座を持っている。しかし、支店名も口座番号もちがう。それを先方に伝えると、こうたたみかけてきた。
「やはりそうですか。犯人のアジトから偽造キャッシュカードが100枚以上見つかっていて、特殊詐欺の振込先に指定されていたんです。被害者から○○さん宛てに被害届が出ているので、電話での調査にご協力くださいますか?」
つまり、記者が犯人でないことは理解しているものの、被害届が出ている以上、調査しなければならないということ。
とっさに、「えん罪に巻き込まれるのでは」という不安がよぎった。
「やはり、警察に説明しておく必要がある」と思い、不覚にも「(電話聴取に協力しても)いいですよ」と返答してしまったのだ。
すると犯人は、改めて「私は警視庁刑事部組織犯罪捜査2課の○○です」と名前を名乗り、「このまま宮崎県警に電話をつなぐので、一人になれる場所に移動してください」と指示してきた。
なぜ、一人になれる場所でないといけないのか。
ここで、「怪しい」と、ハッとわれに返った記者は、「いまから仕事なので」と告げて電話を切り、すぐ公開されている警視庁の電話番号にかけて、事の顛末を説明した。
すると、「それは詐欺です。10月に入り、同様の詐欺電話が多発しています。そのままやりとりを続けていると、『示談金を支払ってください』と言われ、振り込みを指示されます」と警告を受けたのだ。
危うく騙されるところだった。
同じ時期、本誌編集部の別のスタッフにも、「宮崎県警」を騙る不審な電話がかかっていた。
また、18日にも静岡県沼津市に住む女性が警視庁捜査2課を名乗のる電話があり、35万円をだまし取られたという報道があった。
被害にあったのは30代女性で、「特殊詐欺グループの犯人を逮捕したら、あなた名義のキャッシュカードを持っていた。
「あなたの口座に6000万円が入っていた。犯人はあなたを仲間だと言ってる。あなたの口座に入っている1万円札を確認したい」
などと言われ、女性はコンビニエンスストアのATMなどから、指定された口座に現金35万円を振り込んだという。
「警察を名乗る詐欺被害のご相談は、ここ数カ月で増えています。被害金額は、ひとりあたり数十万円から数百万円。多い場合は1千万円を超えることもあります」
そう明かすのは、詐欺の手口に詳しい弁護士の今井健仁さん。
こうした特殊詐欺の手口は多様で、年々進化しているという。
「いわゆる親族を装って、お金を騙し取る“オレオレ詐欺”は、かなり減っています。
『まさか騙すことはないだろう』と誰もが信じてしまう、警察や弁護士などを名乗る“新手のオレオレ詐欺”が増えているんです」
最近、急増している「サポート詐欺」にも要注意だ。俳優の要潤(43)も今年9月、サポート詐欺にあったとXで告白して話題になった。
「パソコンでネット検索していると、突然、警告音とともに〈ウイルスに感染しました。サポートセンターに連絡してください〉などというニセ画面が表示されます。
マイクロソフトなど有名企業の名が表示されることもあり、つい信じて電話をしてしまうのです」(今井さん、以下同)
電話をかけたら最後。
「このままではウイルスに侵されて個人情報を盗まれる、パソコンのデータが消去されてしまう、などと危機感を煽られ、犯人の言うままにパソコンを遠隔操作できるソフトをダウンロードさせられたり、口座情報などを入力させられたりして、いつの間にかお金が引き落とされています」
一度、騙されるとカモにされ、徹底的に騙し取られることも。
「ニセの保険会社から、『サイバー保険に入ったほうがいい』と言われたり、公的機関を名乗る人物から、『ウイルスが別の方に感染したから示談金が必要』などと電話がかかってきて、言われるまま振り込んでいるうちに、被害総額が増えていきます」
騙されないためには、パソコンに警告が出ても絶対に電話をしないこと。警察や役所、大企業などを名乗った場合でも、すぐ信用せず、いったん電話を切って公開されている窓口に確認をとるとよい。