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「(13年間の夫婦生活は)一言で言うと面白かった」

 

そう言い切るのは、新世紀エヴァンゲリオンの主題歌『残酷な天使のテーゼ』の作詞家で知られる及川眠子(おいかわねこ・56)さん。その及川さんが、この度、2001年から2014年まで、トルコ人の夫との夫婦生活を綴った『破婚 18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間』(新潮社)を上梓した。結婚生活の間に、夫に注ぎ込んだお金、なんと13年間で約3億円。離婚時に背負った借金は、7000万円というから驚きだ。それでも面白かったと言える境地にたどり着いた。

 

「ここまで徹底的にやられるのってあんまりないでしょ。私にも最後のほうは騙されたという自覚はあった。元々彼にそうした部分が多いにあることを、私自身ももちろん分かっていた。でも愛でそれを押さえ込んでいた。最後のほうは“してやられた”という気持ち、なんでこんな嘘にやられたんだろうと。でも、向こうは向こうで嘘ではないの。そのときの彼の言っていることは真実なんだよ。ただそれを守れない」

 

トルコで恋に落ちた及川さんは、ほどなくして元旦那と旅行会社を設立。元旦那の要求されるがままにお金を与え続けた。それは、彼を一流のビジネスマンに変えるための、及川さんなりの考えだった。

 

「学んだことは“人は変えられない”ってこと。私は自立していて、彼の地位も名誉も経済も脳みそでさえ私だった。私はそこらへんにいるノラを拾った。これ、言い換えればあしながおじさん。男がやったら男の甲斐性だったりするんだけど、女がやると、騙されていると言われる。これが凄く不思議なんです。でも、経済的にも社会的にもそれなりに認められている、それに知恵もある。だから私は彼に仕事のやり方だとか、日本での習慣とか全部教え込んだの。それで彼を変えようとしたの。ノラを一流にしようとしたの。一流のビシネスマンにしようと。雑種の犬だってちゃんと洗ったらもしかしたら、犬のコンテストで勝つ雑種かもしれないよと思っていたんだけど、人は変えられなかった。無理に変えられない。人は自分の気づきによってしか変わらない。でも、この本のなかで一番言いたかったことは、未来は自分の意思で変えられる。立ち止まるより、悪いことがあるとわかっていても進むほうが楽しいということ」

 

振り返ってみると、濃密な13年間でありながら、元旦那のことを綴った詞がひとつもないことに気づいた。それはいったいなぜだったのか。

 

「凄く説明しづらいんだけど、人との関係性の中で湧き上がる思いが詞になる。それが加工されていく。大抵そのネタになるのって、なんで通じないんだろうとか、こっちはこう返したのにあっちはこう返したっていう不安だったりとか嬉しさだったりとか、そういう部分なの。でも彼はもっと直情的だった。これをこう伝える、で向こうが返すという。その中で『何で分かんないの?』ということはあっても、微妙な、揺れた部分があんまりなかった。13年もいて、私、半分も一緒にいなかったんだよ、彼と。3分の1ぐらいだった。でも1回も『寂しい』って感じたことがなかった。例えば、他の男だと一緒にいても寂しいって思うことがある。それは伝わらなさだったり、気持ちの掛け違いだったりが寂しい気持ち。ところが元旦那にはそれはなかった。自分の中で、余計な1人遊びみたいな妄想を作らない。詞を作るのっていうのはいわゆる妄想だから」

 

経済的自立の上にしか精神的自立はない。主婦がこれからやりたいことを自由にやっていくために必要なことは、何でもいいから働くこと。それは小さいことからでもいいと及川さんは言う。

 

「主婦として生活していくなかで、不満がある人がどうやって突破していくかということなんだけど、ほんの少し向きを変えたりすることで世界は全然変わる。例えば今まで朝7時に起きていたのを朝5時に起きるということに変えたりする。じゃあその2時間散歩してみようと思って実行すると凄く変わったりする。だから今ある、今パターン化されたものをどこか1つ風穴あけたり、少し変えてみたりすることで全然世界は変わる。まずそこを突破口にしてほしい。愚痴を言っていても仕方ないんじゃない?って。あとは、私よりもっとひどい人もいるんだって安心してもらえれば嬉しいですね(笑)」

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