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(写真:篠山紀信)

 

瀬戸内寂聴(95・以下、寂聴)「おめでとう、まなほ! こんなに早くあなたの本が出版されるなんて、本当にすごいことよ。私はあなたがときどき、私の机の上に置いてくれる手紙を読んで、早くからまなほの文才を発見していたんですよ」

 

瀬尾まなほ(29・以下、まなほ)「先生と私はいつもふざけあったり、口喧嘩したりしているから、かしこまって感謝の気持ちを伝えるなんて恥ずかしくてできない。それで私は、先生に手紙を書いていたのです」

 

寂聴「そう。その手紙があんまりいいので、私の小説(『死に支度』講談社)の中にそのまま使ったら、それを読んだ編集者たちが口々に褒めるので、『あれは、うちの秘書のまなほの手紙そのままなの』と、言ったら、みんなまなほに興味を持ちだして。競争であなたに本を書かせようとしてくれたのね」

 

まはほ「はい。ありがとうございます」

 

瀬尾まなほさんが寂聴さんの秘書になったのは’11年3月、大学を卒業してすぐのことだった。その2年後には、事務所のベテランスタッフたちが、「先生にこれ以上ご負担をかけたくない」と、退職していった。1人残された瀬尾さんは当時25歳。最初は戸惑いも多い日々だったが、いまや寂聴さんと66歳年下の秘書の息の合った掛け合いは、出版関係者たちからは“寂庵名物”とも呼ばれている。瀬尾さんが、7年の日々についての著書『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(光文社・11月15日発売)を出版したのを機に、この特別対談が実現した。

 

寂聴「いろいろ言い合うけど、仲いいよね。私たち」

 

まなほ「最後には私が折れてますからね。私のほうが大人なんじゃないかって、ときどき思います」

 

寂聴「ハハハ」

 

まなほ「毎朝、起こしに行くじゃないですか。目が覚めた先生から『ああしんどい!』『腰が痛いわ』って言われると、私もズンと沈むんです。今日は体調が悪いんだなぁと……」

 

寂聴「毎朝、私も大変なのよ。『おはよう』って入ってきたあなたに『おはよう』って返すと、あなたの機嫌が悪くなる。ですから『今日もきれいね』って言わないといけないのよね」

 

寂聴さんは’14年5月に、腰部圧迫骨折で入院し、9月に胆のうがんの全摘出手術を受けた。さらに今年初めに2回の心臓と足のカテーテル手術も経験している。壮絶な闘病生活が続いたが、そのたびに目を見張る回復ぶりで、術前より元気になって寂庵に戻ってくる。その元気の源が、いつも傍らで支えている瀬尾さんの存在だった。

 

寂聴「まなほが来てから、私がよく笑うようになった、若返ったと、皆さんに言われるのよ」

 

まなほ「そう聞くと、私までうれしくなります」

 

寂聴「朝、目が覚めてまなほの顔を見た瞬間から笑っている。誰かが何かしたとかじゃなく、あなたの顔を見ると笑いたくなるのよ」

 

まなほ「それって、悪口にも聞こえますけど(笑)」

 

瀬尾さんは寂聴さんの勧めで2年前から、困難を抱える女性や少女たちを支援する「若草プロジェクト」の理事に就任。今年の6月からは共同通信社の連載「まなほの寂庵日記」がスタート(毎月20日更新)。来年には、2冊目の著書も出版される。

 

まなほ「いまは先生のことで頭がいっぱいで、将来のことは全然考えていないんです。先生は、『書くことを選択肢のひとつにしたら』と言ってくださいますけれども、与えられているお仕事はすべて先生の恩恵なので。これを続けていけるだけの力があるのか、まだわからないのです」

 

寂聴「あなたは感性が豊かだから、いい随筆が書けると思います。自分だけが持っているものを信じることが大切よ」

 

まなほ「はい。先生と別れた後の将来については家族も応援してくれているので、自分の可能性を信じてみたいと思っています」

 

寂聴「30歳前に本が出るなんて、素晴らしいこと。そのうち東京のホテルでパアーッとお祝いのパーティをやりましょう。まなほは真っ白なウエディングドレスを着て」

 

まなほ「え? 結婚式じゃないんですよ(笑)」

 

寂聴「本が売れたら忙しくなって、婚期を逃すかもしれない。そうなると、もう私はあなたの結婚式に出られないから」

 

まなほ「でも先生のことですから、魂になっても会場に飛んで来て、ウエディングケーキのてっぺんをかじるに決まってます(爆笑)」

 

寂聴「そう、そうやっていつの間にか、あなたに笑わされてしまう。でも私は、それがとても幸せなの」

 

 

【著者略歴】

瀬尾まなほ(せお まなほ)

瀬戸内寂聴秘書。1988年2月22日兵庫県神戸市出身。京都外国語大学英米語学専攻。大学卒業と同時に寂庵に就職。3年目の2013年3月、長年勤めていたスタッフ4名が退職(寂庵春の革命)し、66歳年の離れた瀬戸内寂聴の秘書として奮闘の日々が始まる。瀬戸内宛に送った手紙を褒めてもらったことにより、書く楽しさを知る。瀬戸内について書く機会も恵まれ、2017年6月より『まなほの寂庵日記』(共同通信社)連載スタート。15社以上の地方紙にて掲載されている。困難を抱えた若い女性や少女たちを支援する「若草プロジェクト」理事も務める。大好物は「何よりも胸をときめかせる存在」というスイーツ。座右の銘は「ひとつでも多くの場所へ行き、多くのものを見、たくさんの人に出会うこと」。

 

 

『おちゃめに100歳!寂聴さん』

 

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(写真:篠山紀信)

 

著者:瀬尾まなほ(瀬戸内寂聴秘書)
価格:1,300円+税
判型:四六版ソフト/272ページ
出版社:光文社

http://amzn.asia/2mtiBLX

 

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