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「今回の役は、ふだん『演劇というものは』とか『お芝居はこうでなきゃダメ!』と理屈っぽく語ってる僕にピッタリだなと思って(笑)」

 

そう話すのは、ストレートプレイやミュージカルなど舞台を中心に活躍する成河(37)。演劇への熱く真摯な思いは、まっすぐなまなざしからうかがえる。

 

昨年はアメリカ発のコメディで38役を演じ分ける一人芝居『フリー・コミティッド』に挑戦した。彼が選ぶ出演作品のジャンルやテーマはさまざまで、見る者を飽きさせない。「同じ場所にとどまって、同じ様式のことばかりをしていたくはない」と言う彼らしい選択だ。

 

今春臨むのは3人の俳優によるロンドンの精神科病院を舞台にした会話劇の舞台『BLUE/ORANGE』(3月29日~4月28日/DDD青山クロスシアター)。退院を控える入院患者クリスをめぐって、研修医ブルースと上司のロバート医師が意見を交わす。9年前の初演ではクリスを演じたが、今回はブルース役だ。

 

「初演のとき、精神科医になった大学の先輩に話を聞かせてもらいました。『僕ら医者にもわからないことが多くて、結局は対症療法になってしまう』という言葉が印象的でしたね。うつだってそうだよね。患者も医者も、人間ってわからないことだらけで」(成河・以下同)

 

クリスは境界性人格障害のために入院していたアフリカ系の青年。治療を終えて退院の準備をしているが、ブルースは彼を退院させるのは今はまだ危険だと考え、ロバートと意見が分かれているのだ。

 

「病院や疾患というのはあくまで題材であってね。人間の善意がのちに悪意に反転していく。それが起きるパワーバランスを、見る側が日常のどんな事象にも置き換えられるように描いています。子どもをめぐっての夫婦げんかや、生徒をめぐる教師同士の対立にも見える。社会や人間関係を考えるときに役立つはず」

 

後半、医師と患者の立場が逆転する展開も。気がつくと見る者は混乱の中にいる。

 

「あえてどっちがどっちか、わけがわかんない状態に引き込みます。現代の僕たちの正常と異常の境界線って曖昧だよね。鍵をかけたか、テレビを消したか、家を出てから気になって確かめに戻ることとか誰にでもあるでしょ? 病気との境界を調べ始めると興味深いなと」

 

演劇として客観的に眺めると、人間性や、力関係がリアルに浮かび上がってくる。

 

「コメディタッチなところもあるので、精神科病院という背景などを忘れて、あ、こういうことあるなぁ、と笑いながら見ていただけますよ」

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