この30年、増築のチャンス、チェーン展開の誘いも断り、ひとりの営業にこだわってきた小林さん。「人間、生まれながらに器量っていうのがあってさ。10人使える人、100人使える人、1000人使える人、もう最初から決まってる。たぶん僕は、人使うタチじゃない。結局自分でもなんでもやっちゃおうと思うから。

それに食べ物屋と屏風は広げると倒れるって言ってね。狭い店内だから活気も出るし繁盛もするんで。それを広げちゃうと、拡散して目の届かないところが出てくる」。 

もむでもほぐすでもなく、麺を手の中で踊らせながら、湯気のたつ鍋に入れる小林さん。さりげない仕草だけど、何か込めているような。たぶん他の人がやったら、ズズッとすすれる、あのおいしい食感は出せない。マニュアル化はできない。

昭和26年創業、二代目となってからは30年。味も店構えも墨守してきた「福寿」だが、お客さんは20~30代の若い子が多い。BGMも若い。取材時にはニルヴァーナが流れていた。ヒップホップも好んで聞く小林さん。年を尋ねても最後まで28歳と言い張っていたが、白の調理着の下は半ズボンに長靴。たくましくのぞく腕と脚、この15年、体力維持のために毎日400回のスクワットと腕立てを欠かしたことがないという。半ズボンは小学生を見習って。以来風邪知らず。28歳どころの騒ぎじゃない(笑)。

「僕はものすごく態度悪いからね。なるべくお客に話しかけられないようにしてる。高校時代の初恋の人が来たこともあったけど、ババアになってて気付かなくって、ずっとシカト。後で聞いたら『二度と行かない!』ってカンカンになってたって(笑)」

そう、僕も最初は途方に暮れました。小林さん、「いらっしゃい」も「ありがとう」も言わないし。なのに店内には何故か、お客さんからのメッセージや作品、記念写真が多数。誰もが知ってるあんな人や、こんな人も常連だったり。つまりは、そういうことです。

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