先代の今村五男さんが現役だった昭和56年、NHKの「きょうの料理」で春木屋の中華そばが取り上げられた。おそらくは公共の電波で、ラーメンが"料理"として認められた初めての出来事。そしてその2年後、春木屋は130人の行列を記録する。

 「忘れもしない昭和58年。最後のお客様まで5~6時間はかかりました。皆さん召し上がると後ろの人を気にして、すぐに席を立って。うれしい反面、申し訳なかった」。感慨深げにそう語るのは幸一さんの妻、正子さん。凛としたたたずまい、縁あってお店に入る前は「飛行機に乗っていた」と聞いて納得。教官まで務めたという正子さんは、いわば接客業のプロフェッショナルだ。

 「春木屋はもともと清潔なお店でしたが、当時のラーメン屋は"汚い方がおいしい"みたいなジンクスがあって、絶対おかしいと思ってた。人様の口に入るものを提供するんだから、お店は奇麗であって当たり前。それから無愛想な接客が良しとされていた風潮も。私が調理場に立っていたのは10年間でしたが、おいしくて、手頃な値段で、清潔で、感じも良い。そんな四拍子揃ったお店にしたかった」。たしか僕もこの店で、水が残り2口くらいになったところで「お冷、お注ぎします」と店員さんにお辞儀され、お辞儀で返した記憶がある(笑)。

 代替わりを機に従業員も使うようになり、14名が働く現在の春木屋。清潔な白の調理着、大きくはっきりした声での挨拶、先を読んでの接客。正子さんの指導が行き届いている。

 「役回りだと思って、うるさいおばさんやってます(笑)。味については口を出さないけれど、おじいちゃんが人生かけて作ったお店。ダメにするわけにはいかない」

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