「おはようございます!」。元気よい挨拶で山岸さんを迎える従業員のみなさん。礼儀はわきまえているが、決して萎縮している感じは見えない。にこやかな表情で厨房に進む山岸さん。スープの入った寸銅へと向かう。

山岸さんのスープは作り方も独特。普通、ラーメンのスープといえば味つけは"返し"の担当で、スープはもっぱらダシ汁の役目だが、山岸さんはスープそのものに味をつけた。とりどりの野菜や肉がドッサリと煮込まれている寸銅のスープは、この時点でひとつの鍋料理のよう。食欲をそそる、とってもいい匂いがする。

寸銅からレンゲで朝イチのスープを味見する山岸さん。うなずきながら、何やら飯野さんに促して、ひと味、ふた味、加える。再度味見をする山岸さん。大きくうなずく。

「今日のスープ、いいよ!」、うれしそうにそう言った山岸さん。つられて微笑む飯野さん。そう言えば山岸さんが来る前に言っていた。
「マスターはいつもニコニコしてる人なんですけど、スープの出来が悪いと、その時だけは目つきが変わっちゃうんです。別人のようにご機嫌ナナメになる。だから毎朝、スープの味見は緊張の一瞬ですね。出来がいい日は冗談がポンポン飛び出すんですけど」。

ニコニコ顔で僕に話しかける山岸さん。「スープはね、『豚ガラ、鶏ガラ、人柄』ってね。別に俺が人柄いいってわけじゃないけど、ハハハハハ!」。どうやら今日のスープは上出来のようだ。

開店の11時よりも15分ほど早くお店はオープン。あれよという間に店先には長蛇の列。軒先にある券売機の横にある椅子に腰掛け、「いらっしゃいませ~、すぐ座れますよ~」と笑顔を振りまく山岸さん。常連さんとの話に花を咲かせる。そのうちお店の中から券売機に戻ってきて、おつりの取り出し口を何度となく覗くお客さんが。どうやらおつりを取り忘れてしまったみたいだ。

「ああ~、もう誰かが持ってっちゃったんだねえ。いくら? …ハイ、どうぞ」、そう言ってポケットから小銭を出してお客さんに握らせた山岸さん。とても自然な仕草。こんな光景を見るのは何年ぶりだろう。そう言えば飯野さんは言っていた。

「弟子を取るようになってからのマスターは、傍から見ると『大丈夫かな、この人に教えても…』って思うような人でも分け隔てなく受け入れてましたね。相手の話を親身に聞いて、『じゃあがんばりなさいよ、大勝軒の味覚えてね』って」。

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