「糖尿病と診断された人の寿命は、そうでない人より女性で13年、男性で10年、短いとされます。女性の平均寿命が86歳ですから、糖尿病の女性は平均73歳しか生きられないことになります」

 

こう話すのは、北海道大学医学部を卒業後、糖尿病専門医ひとすじの牧田善二先生。35年間でのべ10万人を診療し、久留米大学医学部教授を経て、現在、東京・銀座でAGE牧田クリニック院長を務めている。牧田先生によると、ここ10年間で糖尿病と診断された日本人は3倍増。現在、成人の4人に1人、約2千300万人が糖尿病患者だという。

 

糖尿病自体はどんなに血糖値が高くなっても体が痛くなったり苦しくなったりするわけではない。ただ血糖値が高いことで、ほかの病気を誘発するリスクが非常に高くなるのだ。とくに大きなリスクは『がんになるリスクが高い』『血管がもろくなることにより、脳梗塞・心筋梗塞のリスクが高まる』『3大糖尿病合併症』の3つ。

 

糖尿病の合併症には主に、糖尿病網膜症(目の網膜の毛細血管が詰まったり切れたりすることで発症。失明にいたることもある)、糖尿病神経障害(高血糖により手足の神経細胞がダメージを受けるなどから発症、最悪の場合、手足を切断することになる)、糖尿病腎症(血液のろ過と浄化をしている腎臓が高血糖でダメージを受け、悪化すると腎不全になり、人工透析が必要となる)だ。ところが、そんな糖尿病の合併症治療がいま劇的に変わりつつある。

 

「ひとつは検査方法です。これまで腎機能は、血液中のクレアチニン値で判断していました。しかしクレアチニン値が基準を超えたときには、腎臓のフィルターにすでに大きな穴が開いてしまっている状態。これではそれから治療しても、遅かれ早かれ人工透析になってしまう」(牧田先生・以下同)

 

それに代わって最新の腎症治療で注目されているのが、尿の中のアルブミンの量だ。

 

「アルブミンは血液中に存在する代表的なタンパク質。健康な腎臓はこれをろ過して通過させないため、尿で検知される値は0〜1mg/gです。これが18mgを超えたら、フィルターに穴が開き、腎症を発症したと考えられる。しかしこのときまだ血中クレアチニンは正常範囲内なんです」

 

なぜ、早期発見が大切か?じつはこの段階なら、人工透析まで悪化させることなく腎症を治す薬が見つかっているからだ。

 

「’08年に海外でアルブミン量が100〜300mgまでの患者の症状を改善させる薬(テルミサルタン)が報告されました。翌年、日本の第一線の糖尿病研究チームが臨床実験し効果を確認。この画期的な薬のおかげで私の診療では300mgまでの患者ならばほぼ100%が改善されています」

 

テルミサルタンはもともと血圧を下げる薬として使われていたもので、それが腎症に効くとわかったことが画期的なのだという。しかし、現在、尿アルブミン値を検査する医師は糖尿病専門医でも半数程度と少ない。なぜか?

 

「正直、最新の治療情報に接する医師が少ないのが現状だからです。一般内科医では知らない人も多いでしょう。そうした場合は、患者のほうから、かかりつけ医に3カ月に1回の尿アルブミンの検査を依頼してください。とにかく早く見つけて早く治療しないと、取り返しがつかなくなるんです」

 

牧田先生によれば、医師の医療情報の格差は広がるばかり。万一、かかりつけ医がこの検査を渋るようだったら、病院を替えてでも、検査を受けることが大事とのこと。

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