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昨年12月に発売された光文社新書『視力を失わない生き方』。この本では、海外の学会で最高賞を20回も受賞している世界的トップ眼科医が、日本の眼科の時代遅れの治療を告発しており、発売から1カ月で3刷りと、売れ行きも絶好調である。著者の深作秀春医師は、「眼科は外科であるため、手術の腕がとても重要」と眼科選びの重要性をくり返し訴えているが、さらに、本の中では触れられなかった、手術の際に用いられる「眼内レンズの質」も重要だと訴える。以下は、深作氏が寄せてくれた言葉だ。

 

白内障手術は技術だけでなく、眼内レンズ自体の質も重要

 

私がアメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)の理事になりたてのころ、眼内レンズの品質が大きな問題になった事件が頻発しました。中でも、世界的な某企業の製造するレンズは、材質の分子間結合が緩く、間に水の分子が入り、次第に濁ってくるという問題が起きました。眼内レンズにはアクリルという素材を使います。眼を小さく切開して、レンズを折りたたんで入れるために、このアクリルが、従来の硬いプラスチックに比べて柔らかい素材に変えられるようになったころに問題が起きました。

 

問題となったメーカーは、折りたたむタイプのレンズの先発メーカーでした。柔らかいアクリル素材を型に流し込むようにして作るために、素材の分子間結合が緩すぎたのです。他の後発メーカーによるものは改良がなされており、ある程度は柔らかいのですが分子間結合は充分に強い素材が使われました。その素材の塊を「レースカット法」という方法で削り出してレンズを作っています。しかし先発メーカーのように、アクリルの分子の配列が緩すぎると、間に水の分子が入り込み、徐々にレンズが白内障のように濁ってきます。実際に数年で、まるでまた白内障になったような濁りが眼内レンズ自体に出てきてしまうのです。

 

つまり、どんなに最高の白内障手術が施行されても、こういったレンズが使われていると、矯正視力は最高でも0.5以下ほどしか出なくなり、さらに視力は下がります。実質的には10年ほどで駄目になるレンズなのです。現代は長生きする方が増えていますので、寿命が10年のレンズでは困る方が多いでしょう。さらにこのレンズは、端がひどく尖がって鋭いために、もしもレンズがカプセル内に完全に入って包まれていないと問題が起きます。鋭いエッジが外に出て、虹彩(茶目)の後ろにある色素細胞の多い面をこすってしまい、常に炎症が起きることになるのです。

 

この炎症反応は、眼圧を上げ、続発性緑内障を起こすこともあります。また炎症が網膜に影響すると、網膜黄斑部の浮腫がおきて視力が落ちます。こうなると、視力が出ないだけでなく、失明に至る危険性さえあります。当時のアメリカ眼科学会のASCRSでは、このレンズを入れた多くの問題例が症例報告されたのです。このため我々はアメリカ眼科学会の理事会で、「このレンズを使うことは問題が多い」との声明をアメリカの学会会員に通達しました。またメーカーの社長には、直接改善を求め何回も話しました。製造工程上の問題があるので改善するようにと伝えたのです。

 

ところが日本には、問題はその後で来ました。そのメーカーは、アメリカで売れなくなったレンズを、日本など海外の意識の低い眼科後進国に大量に送ったのです。メーカーは日本では、大学病院を中心に派手な接待攻勢をかけました。食事や酒の席の接待、ゴルフ旅行接待、海外学会の渡航費から滞在費や観光接待など、私の眼には目に余るように映りました。その結果どうなったかといいますと、何とそのレンズは日本で6割近い眼内レンズシェアを得たのです。つまり実質的な賄賂である接待攻勢で、大学のお墨付きを得たレンズになったのです。アメリカでは「使ってはいけない」とされたレンズが、日本では「進んだレンズ」とされたのです。

 

確かに柔らかいこのレンズは、折りたたんで目の中に移植するのはとても簡単です。医師の側は、まるで手術がうまくなったような気がします。大学病院のような研修病院の経験の浅い医師でも、手術がうまくなったような錯覚を覚えるほどです。アメリカ眼科学会の理事として、アメリカ人の患者を救うことはできましたが、日本では多勢に無勢で、このレンズの問題を指摘しても、駄目でした。本の中でも主張していますように、日本ではたとえ間違っていても、大学が中心として作ったガイドラインに従うことを強いられたり、多勢が使っているからむしろ良いのだとされるような、非常識極まりないことが充満しています。

 

そのレンズも今は第3世代になり、さすがに初期よりは良くはなっているのですが、しかし製造方法が流し込みの「モルディング法」なので、どうしても分子間結合は「レースカット法」で削り出したレンズよりも緩くなり、間に水の分子が入ります。つまりレンズが濁ってきます。我々の施設ではもちろん、できるだけ良い眼内レンズの素材を選んでいます。実験では100年持つとされたタイプのレンズを使っています。これは、先ほども書いたような、比較的固いレンズを削り出して作製するもので、折りたたんで移植するには少し難しいのですが、手術後の視力ははるかに良くなります。

 

我々の使うレンズは高価ですが、アメリカではレンズの保険代を2倍請求できます。日本ではどんなに良い高価なレンズを使っても、保険代は同じです。この差額は当院で負担することになりますが、白内障手術後にほとんどすべての方が、1.2以上の視力が出て喜ぶ姿を見ると、最高のレンズを使って良かったといつも思います。白内障手術は医師の技術だけでなく、眼内レンズの品質にも気を付けてください。つい最近も、テレビに出たりして有名なある白内障術者に手術を施行され、この問題のあるレンズを移植された某出版社社長が、助けを求めて当院に来院しました。矯正視力は最高で0.5しか出ないのです。さらに、後嚢のクリーニングはされておらず、白内障の取り残しもあり、片眼は手術中に失敗して後嚢を破っているのです。しかも患者の術後の両眼は遠視となっていて、眼鏡を4つも作っても見えないと嘆くのです。

 

当たり前です。このような劣悪なレンズを使っていれば良い視力は期待できないのです。しかも、眼内レンズに無関心なその医師は、手術後に絶対起こしてはならない強い遠視化をおこして反省もしていません。つまり、簡単に思われるかもしれない白内障手術でも、安易に眼科を選んではいけないのです。また、レンズには種類があることを知り、自分に使われるレンズは長持ちする良いレンズなのかどうかを、ぜひ確かめなければなりません。我々のような世界トップとされている施設では、眼内レンズの材料にも最高のものを使うのです。これはこだわりでもあり意地でもあります。日本の医療費は先進国の中では極端に安いのですが、それでも最高の眼内レンズを使い、患者には100年間は良い視力を保ってもらいたいのです。

 

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光文社新書『視力を失わない生き方 日本の眼科医療は間違いだらけ』

価格864円

新書/320ページ

出版社:光文社

発売日:2016/12/15

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