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《酒に弱いと骨折リスクが高まる》。そんな見出しが新聞各紙に躍ったのは3月末のこと。「酒と骨折リスク」研究を発表したのは、慶應大学などの研究チーム。3月27日付のイギリスの科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』で発表し、世界的に注目されているという。さっそく研究について同チームの慶應大学医学部整形外科特任準教授・宮本健史さんに解説してもらった。

 

「もともと私たちは近年、大腿骨近辺の骨折が増加していることに注目していました」(宮本さん・以下同)

 

’14年には大腿骨近辺を骨折した人は約19万人にもなったという。なんと、1日平均520人が太ももを骨折していることになる。

 

「大腿骨近辺の骨折は手術が必要となることも多いうえ、回復にも時間がかかります。とくに高齢者の場合は骨折をきっかけに認知症になったり、回復しないまま寝たきりの生活が続いたりと、介護問題にまで及ぶのです。骨折後1年以内に亡くなる人も少なくありません。調査をすると、骨折をした人たちは高齢者が多く、とくに閉経後の女性が多いことがわかりました。この条件は骨粗しょう症のリスクの高い人に当てはまるのですが、骨折する人の多くが、自分が骨粗しょう症だという自覚がない場合も少なくありません。ちなみに女性は70代後半になると、2人に1人が骨粗しょう症になります」

 

’14年時点で日本の骨粗しょう症患者数は推定1,300万人に上っていた。さらに研究を続けていくと、“飲酒”という要因も浮かび上がってきたという。チームは大腿骨骨折をした92人の中高年女性(44〜101歳)と、骨折していない中高年女性たちの遺伝情報を解析。すると骨折した92人の約6割が“ある遺伝子の働きが弱い人”だったのだ。そして遺伝子の働きが正常な人たちに比べると、骨折リスクは約2.5倍も高くなることがわかったという。

 

「お酒を飲むと体内でアルコールが分解されて、二日酔いの原因ともいわれるアセトアルデヒドという物質になります。しかし遺伝子『ALDH2』が変異して、働きが弱くなっている人は、うまくアセトアルデヒドを分解できないのです。そのためアセトアルデヒドが血液中に流れ出て、血管を拡張し、顔を赤くしたりします」

 

アセトアルデヒドは体内にたまると、骨の基となる骨芽細胞の成長を妨げるため、骨折しやすくなる。チームはマウスの細胞でも実験したが、骨芽細胞にアセトアルデヒドを加えると、細胞の働きが弱まったという。

 

「変異したタイプの『ALDH2』を持つ人は、日本人をはじめ、韓国や中国沿岸部など東アジアに多いですね。欧米人に比べて東アジアの人たちがお酒に弱いのは、そのためです」

 

お酒に弱くて、すぐに顔が赤くなる人は、骨粗しょう症になりやすく、骨折もしやすい……。それなら、飲酒しなければ、アセトアルデヒドも発生しないし、骨に影響もないのでは?

 

「実は、飲酒していなくても、通常の食事に含まれるアルコール分の分解過程で、アセトアルデヒドが生じており、本人も気が付かないうちに骨折のリスクが高まっているのです。実際に今回の調査でも、骨折したグループで、遺伝子の変異があった人には、飲酒の習慣がありませんでした」

 

一般的に骨粗しょう症の危険度をはかるチェックリストには、《1日に(日本酒で)3合以上飲む人》といった項目がある。今回の研究結果とは逆のように思えるが?

 

「たしかにお酒に強い人は、弱い人に比べればリスクは低いということになりますが、『だから、たくさん飲んでも大丈夫!』ということではないのです。過度の飲酒が、骨粗しょう症や骨折のリスクを高めることは間違いありません」

 

飲んでも飲まなくてもリスクが高いなんて……。

 

「また喫煙は、骨をもろくさせ、骨粗しょう症リスクを高めます。お酒に弱いのにたばこを吸うのはもってのほかです。とくに下戸の人は、禁煙したほうがよいと思います」

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