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「1日に水分を1.5リットル取る習慣をつければ、認知症はよくなります」

 

そう断言するのは、40年以上認知症介護を研究している国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授。

 

「人間の細胞は水がないと作られません。胃で消化吸収された食べものは、タンパク質分解酵素によって腸でアミノ酸に分解されます。そしてアミノ酸は血液に乗って各細胞に運ばれます。このタンパク質の分解作業は水がないと成り立たない。人体からは1日に約1.5リットルの水分が尿として出ていくので、その分を補う必要があるわけです。また、体から水分が失われると血液がドロドロになり、意識障害が起こることも。そうなると認知症も悪化するため、水分補給はきわめて重要なのです」(竹内教授・以下同)

 

水を飲む――そんな簡単なことで認知症が改善? そこで記者は半信半疑で特別養護老人ホーム「杜の風・上原」(東京都渋谷区、以下「杜の風」)を訪れた。ここでは、入居者が共通して実践していることがあった。それは、水分を毎日1.5リットル飲むこと! 昨年12月22日放送の『爆報!THEフライデー』(TBS系)で「認知症の症状が改善する」特別養護老人ホームと紹介され、話題を呼んだ。

 

「認知症の夫が、お水を飲んでよくなったのよ」

 

水を飲みながら、浅田怜子さん(88)がにこやかに語る。浅田さんは昨年、夫(享年92)を看取った。認知症だった夫は階段の上り下りができないほど体力が落ち、夜間のトイレのたびに怜子さんを起こしていた。しかし「杜の風」に入居して水分を1.5リットル飲むようになると、まず、夜中のトイレがなくなった。昼間は歩行器を使ってトイレに行けるようになったことで、次第に階段の上り下りもできるほどに回復。最後は自宅に戻ることができたという。

 

「お水とリハビリのおかげです。私もこちらに来るようになってから、毎日1.5リットル飲んでいるのよ」(浅田さん)

 

「杜の風」では入居と同時におむつを外し、トイレで用を足すよう促す。最初は職員の介助を必要としても、次第に歩行器を使って自力でトイレに行けるようになるという。

 

「水を飲むとトイレ介助が大変になると思われがちですが、実は反対。高齢者はトイレを気にし、水分不足になっていることが多い。水分不足で頭がぼんやりすると、大脳から『我慢しなさい』という指令が途絶えます。その結果、括約筋が動かなくなり、ぼうこうにたまった尿が反射的に出るのが尿失禁です。水分不足が解消されると脳が尿意を認識できるようになるので、尿失禁が減る。生活のリズムが整うことで夜も深く眠れ、夜中のトイレの回数も減ります。介助者の負担も軽くなるんですよ」(竹内教授)

 

排便もトイレでできるようになる。高齢者は下剤を服用していることも多いが、たいていの場合は十分な水分摂取で下剤は不要になる。「朝ごはんの後にお通じ」という正しいリズムが戻ってくれば、排便時の失敗も減るのだ。

 

この“トイレ活動”は認知症以外にもよい効果をもたらす。山下敏子さん(84)は、’14年3月に「杜の風」に入居したとき、膝の痛みで歩くことが困難だった。しかし飲水法を始めて以降、尿意を感じたときに自力でトイレに行こうと、職員の手を借りて歩くようになる。毎日訓練を続け、1年後には要介護4から2となり、歩行器を使って一人で歩けるまでに改善した。

 

「一人でトイレに行けるようになったことが自信となり、歩く距離が伸びます。これが寝たきりを防ぐことにつながるのです」(竹内教授)

 

水を飲むだけで実際に歩けるようになった人に出会ったことで、更年期世代の記者も今から1.5リットル飲水を始めることを誓った。

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