40代になると“先輩たち”についつい質問してしまう迫り来る更年期の恐怖。ホットフラッシュなど知られているものではなく「やる気が出ない」「不安でしょうがない」などのうつ症状が出ると、更年期とは気づかずに心療内科や精神科へ行ってしまう場合もある。
工藤孝美さん(仮名・52歳)は、そういった“誤診”により、向精神薬に依存する生活から抜け出すのに苦労した女性の一人だ。
孝美さんは、若いころから体が丈夫なことが自慢だった。幼いころに始めた水泳も定期的に「1日1~2キロ」を長年続けていた。優しい夫との間に2人の息子にも恵まれた。週末になれば郊外に出かけ、家族でアウトドアを楽しんだ。家事も仕事もバリバリこなす“できる女性”だったのだ。
それが崩れだしたのは40歳を過ぎたころ。子育て、仕事、家事と忙しくしていたうえに、義母の介護も重なった。
「『めんどうくさい、かったるい』という感情が芽生えるようになり“できないこと”が増えていきました。朝出かける前の皿洗いとか、以前ならパッパッとやっていたのに、だんだん台所に洗い物がたまったままになり……」
生理も毎月きちんと来ていたので「疲れているんだろう」くらいの認識だった。そのうち自分を責めるようになる。
「やらなきゃと思うほどボーっとして、ダイニングに座ったまま。真っ暗になっても晩ご飯ができていない日もしょっちゅう。そして『まだできていないの?』と言われると傷つくんです。家族は私を責めるつもりはなかったと思うのですが、当時はその判断ができなくなっていました」
息子たちは受験期に入っていたが、母親は部屋にひきこもるようになる。
「45歳、焦れば焦るほど空回り。私、この先、どうなっちゃうんだろう……」
その不安から精神科に通い始める。向精神薬を飲み、効き目が弱くなると強い薬に変えてもらうようになった。内科、胃腸科、婦人科、脳神経科、精神科と“ドクターショッピング”を重ねた。
「使った医療費はたぶん数百万円。自分の体力に不安があるのにお金がどんどん出ていく。もう死んだほうがいいと思ったこともありました」
そんなとき、友人から更年期外来を勧められて、HRTをスタートすることに。
更年期障害の治療法として知られている女性ホルモン補充療法(略してHRT)は、「乳がんのリスクが高いから怖い……」と思っている人も多いのではないだろうか。
この情報は’02年にWHI(女性の健康イニシアティブの略。米国国立衛生研究所による女性の健康に関する研究プログラム)が、「HRTは乳がんリスクが高まる」という発表をしたことによる。
しかし、この研究は、本来であれば40~50代にHRTを開始した女性を対象にすべきところ、60歳を過ぎてから始めた女性を対象とした、少し的外れな調査だった。
その後WHIは’16年、一転して「HRTによる乳がんリスクは少なく、かつ、HRTはさまざまながんや骨粗しょう症、動脈硬化、うつ、認知症などの予防になる」と発表、日本でも日本産婦人科学会が’17年11月に「ホルモン補充療法ガイドライン2017年版」で報告をしている。
「すぐにはお薬(向精神薬)を手放せませんでした。でも1年ほどして、初めて自分から何かを“やりたい”という欲望が湧いたんです。それは『薬をやめたい!』というものでした」
完全に薬をやめるには1年以上かかったが、4年たった今はすっかり体力も回復。水泳も再開し、現在の骨密度は「28歳レベル」だ――。
「更年期の症状が強く出る傾向があるのは、真面目で責任感の強い人に多く、そういう人が環境の変化にさらされると、予想外に早めに症状が出ることもあります」
こう語るのは、女性ホルモン補充療法の第一人者、小山嵩夫先生(小山嵩夫クリニック)。HRTを受けるには、産婦人科でHRTを希望し、更年期指数(SMI)を調べてから、ホルモンレベルを測るための血液検査を行う。気になる人は、次の「簡略更年期指数(SMI:Simplified Menopausal Index)」をチェックしてみよう! ◯をつけて合計点を出し、自己診断を。症状のどれかひとつでも強くあれば強に◯をつける。
□ 顔がほてる 強:10 中:6 弱:3 無:0
□ 汗をかきやすい 強:10 中:6 弱:3 無:0
□ 腰や手足が冷えやすい 強:14 中:9 弱:5 無:0
□ 息切れ、動悸がする 強:12 中:8 弱:4 無:0
□ 寝つきが悪い、眠りが浅い 強:14 中:9 弱:5 無:0
□ 怒りやすく、イライラする 強:12 中:8 弱:4 無:0
□ くよくよしたり、憂うつになる 強:7 中:5 弱:3 無:0
□ 頭痛、めまい、吐き気がよくある 強:7 中:5 弱:3 無:0
□ 疲れやすい 強:7 中:4 弱:2 無:0
□ 肩こり、腰痛、手足の傷みがある 強:7 中:5 弱:3 無:0
【合計点数による自己採点の評価法】
0~25点:異常なし
26~50点:食事、運動に注意を
51~65点:更年期・閉経外来を受診すべし
66~80点:長期にわたる計画的な治療が必要
81~100点:各科の精密検査にもとづいた長期の計画的な治療が必要
※このテストで異常がなくても、骨粗しょう症や動脈硬化などが隠れていることがあります。
「SMIが50点を超えれば、更年期障害の可能性がありますから、専門医の診療をお勧めします」(小山先生)