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人知れず“お通じ”のことで悩みを抱える人は推定で1,000万人いるとみられている。これまで日本では、便秘は病気とはみなされず、医療機関に相談しても効果的な治療がなされないことが多々あった。自己診断で市販薬に頼って“下痢と便秘”を繰り返して症状を悪化させる人、あるいは、便秘の原因となる深刻な病気を見逃してしまう人までいるという。

 

「ただの便秘と思って放っておくのは危険です。大腸がんなどの病気や薬の副作用を見逃してしまうこともあるので、苦しいときには我慢しないで医療機関を受診することをお勧めします」

 

こうアドバイスするのは、横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室の中島淳主任教授。ただでさえ病院で自分の便通のつらさを話すことに抵抗のある人は多い。しかも便秘についての“正しい知識”を持たない内科医がいて、門前払いになることもある。

 

そんな現状を変えようと、消化器内科・外科医らで組織する「慢性便秘の診断・治療研究会」が、昨年10月に日本初の『慢性便秘症診療ガイドライン』(南江堂)を作成した。

 

これまで「病気ではない」と軽視されがちだった便秘。しかし、国内初の診療ガイドラインができたことで、状況は劇的に変わりつつある。

 

新しいガイドラインを把握したうえで、便秘に悩む人々にしっかりと向き合ってくれるという医師は、いま全国で着実に増えている。そこで今回、来院した重症患者を例に、ガイドラインの作成メンバーでもある、鳥居内科クリニック(東京都世田谷区)・鳥居明院長に「便秘の原因」と「治療法」を解説してもらった。

 

【ケース1】レントゲンを見てびっくり!“黒い影”の正体は1カ月分の便だった

 

「1カ月排便がないんです」と、真っ青な顔をして来院した70代男性。本当に1カ月も排便がないのか、半信半疑で質問しながら「もしかしたら認知症の症状が出ているのかもしれない」と鳥居先生は思ったが、お腹のレントゲンを見れば一目瞭然、大腸に便がぎっしり詰まっていた。

 

「しっかりレントゲンに便の影が映っていました。それで応急処置として浣腸をし、腸に詰まっている便の排出を試みたのです。市販の浣腸薬では安全性に配慮して15〜30ミリリットルと内容量が少なく、腸の蠕動運動を促すだけで全部は出しきれません。それにくらべて病院で使う浣腸は、120ミリリットルと量が多く、大腸の奥まで薬が行き届きます」(鳥居先生・以下同)

 

そして、保険適用になった慢性便秘症を改善する新薬「アミティーザ」(発売は’12年、適用)を1回1錠、朝夕食前に飲むように処方したところ、3カ月ぐらいで来院する必要がなくなったという。

 

高齢者は「トイレが近くなるから」と飲水を控える人も多いが、それが便秘の原因にもなりうる。適度な水分を取るように心がけてほしい。

 

【ケース2】整腸薬を飲んでいたのにある日、急に症状が悪化してきて……

 

「朝食後すぐ出勤するので、便意があっても我慢していました」という50代女性のケース。20代からずっと便秘だったが、とくにここ1年で状態が悪化。排便が「週に1度だけ」のときも出てきたからと来院した。

 

毎日ヨーグルト、オリゴ糖、整腸剤を飲んでも効果がなかったという。

 

「話をよく聞くと、新しい職場に変わったタイミングで便秘が悪化したとか。まさに仕事のストレスによるもので、典型的な過敏性腸症候群でした」

 

お腹が痛くて苦しいときに頓服用として刺激性下剤を我慢しないで飲んでもらい、ふだんは腸内のガスを取り除く整腸剤の「ジメチコン」(商品名「ガスコン」)、便の水分量を調整して排便を促す「ポリカルボフィルカルシウム」(商品名「ポリフル」)、漢方薬の大建中湯を1日3回分処方した。

 

その1年後に慢性便秘症を改善する新薬「リンゼス」(発売は’17年、適用は便秘型過敏性腸症候群)が発売されたので、これを朝食前に2錠飲むように指導。すると、バナナの形をした理想的な便が出るようになったという。

 

「仕事があると、生活習慣はなかなか変えられないのですが、食生活を見直しながら、薬を少しずつ減らしていくようにしました」

 

元来人間の体には、朝食後に、腸が動く大蠕動が起きて排便するという規則正しいリズムが備わっているが、忙しい現代人は、通勤でトイレを我慢したり出先で用を足せなかったりして「便秘になりやすい生活」が根付いている。さらには、ほかの病気の薬の副作用で便秘の症状が出ることもある。いま問題がないという人でも、人ごとではないのだ。

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