糖質制限が当たり前になったかのようなご時世に、「寿命を縮める」という発表が出たから雑誌やテレビは大騒ぎに。そのきっかけは今年3月に発表されて、読者の記憶にも新しい「ラットを使用した糖質制限」の研究結果によるものだ。発表をおさらいすると次のようなものになる。
ーー1年間、マウスに糖質制限食を与えたグループと通常飼育食を与えたグループに分けて飼育をし、健康状態等を比較した。糖質以外のビタミンなどの栄養素は、まったく同じ内容の食事を与えた。
その結果、糖質制限をしたマウスは背骨が曲がったり、学習能力も落ちていたという。見た目に関しても、毛並みが悪くなり肌つやはなくなり、体全体が炎症を起こしている状態で、皮膚も薄くなっていた、というものだ。
そのうえ、この実験では、糖質制限食を与えたマウスは平均寿命より20〜25%ほど短命だったという。それに比べて、通常飼育食を食べたマウスの多くは、平均寿命より長生きだったーー。
つまりは、この研究は、糖質制限をしていると、老化が進むという結果を示すものだったのだ。
その理屈とはこうだ。年とともに体内に異常タンパク質というものが増える。これを分解し、除去することが老化を抑制する。ところが、糖質を制限していると、この異常タンパク質が分解・除去されずに体内に残ってしまい、老化が促進されるというわけだ。
だが、この研究結果に対して反論する声が、専門家の中から出てきている。
その代表ともいえるのが、糖質制限を推奨している宗田マタニティクリニックの宗田哲男院長だ。自身も、糖質制限を実践しているという。
「糖質は取りすぎると、ご存じのように血糖値の乱高下が起こり、肥満、糖尿病など生活習慣病などのもとになります。加齢で代謝が鈍くなると、取りすぎた糖が蓄積され、アルツハイマー病を引き起こす可能性も考えられています。’99年に医学雑誌『神経学』に発表された『ロッテルダム研究』によれば、高齢者糖尿病におけるアルツハイマー病の危険度は、糖尿病でない高齢者に比べて1.9倍であり、インスリン使用中の糖尿病患者では危険度は実に4.3倍と増加します」
さらに、宗田先生は続ける。
「糖質が栄養として重要だったのは、食べ物が足りない50年ほど前の話です。現在、糖尿病患者は50倍にも増えています。日本においては、糖質の取りすぎが原因です。お米の摂取は減っていますが、より血糖値を上げる新種の小麦で作られたパンやパスタ、莫大な量の砂糖飲料水が売られています。ペットボトル症候群は、砂糖の取り過ぎで起こる糖尿病です。50年前とは糖質のレベルが違います」
糖質の摂取量は、次のように控えるべきと主張する。
「糖尿病予備軍の人も含め健康な人は1日130グラムくらいまでにします。糖尿病、認知症、がんなどの人は糖質を取ると悪化することもわかっているので、程度によって1日50グラム以下に抑えるべきでしょう」
果たして糖質制限は、寿命を延ばすのか縮めるのか、どちらなのだろうか。
そこで、国立国際医療研究センター糖尿病情報センター長・大杉満先生に、今回の論争についての意見を求めた。
「動物実験のマウスやラットというのは、同じ遺伝子背景を持ち個性のないものを使います。今回の実験は事実ではありますが、人間にすぐ当てはめるのは難しいでしょう。というのも、人間は実験したマウスやラットと違って、個体差が激しいからです。年をとるにつれ個体差は大きくなります」
また、炭水化物は糖質+食物繊維のことで、精製された白砂糖、白米、小麦は炭水化物から食物繊維を取り除いた状態なので糖質を吸収しやすいため、控えめにしたほうがいいという。
「さらに最近では市販の食べ物や清涼飲料水には、砂糖の代わりにコーンシロップという、じゃがいも、とうもろこしなどのでんぷんを化学反応させたものを使用している。これは糖質の一種で、体重が増えやすいので避けたほうがいいと思います」
さらに、大杉先生は次のようにアドバイスしてくれた。
「とはいえ、糖質制限が合う人もいれば合わない人もいます。周りの意見に振り回されず、いいと思う方法を試して、自分の体に聞いてみては。体重が増えていないか、元気に働けているか、血圧はどうか、よく眠れているかなど、体に合わなければ、体に症状が表れてきますよ。ただし、肉だけしか食べない、炭水化物をたくさん取るなどといった、極端な食べ方はNG。バランスは大事です。それに楽しくないと続きませんしね」
自分の体に聞いてみる。これが確かなようだ。