「食べ物や飲み物が気管に入ってむせたことはありませんか? そんな誤嚥を放っておくと、食べ物や飲み物が気管から肺へと流れ込み、細菌が増殖して誤嚥性肺炎の危険性が高まります」

 

そう指摘するのは介護予防トレーナーの久野秀隆さん。関東を中心に年間6万人のシニアに、健康を保つための体操指導を行っている。

 

「現在、年間12万人の人が肺炎で亡くなり、死亡率の第3位に。新たな国民病といわれています。その内の7割が、誤嚥性肺炎が原因です。誤嚥が起きると2年以内に50%の人が亡くなっているというデータもあります」

 

体操の参加者からも「よくむせる」「まわりで誤嚥性肺炎で亡くなる人が多い」と、その広がりを実感した久野さんは、その対策に「ゴエン予防体操」を編み出した。

 

「誤嚥は、高齢者や寝たきりの人に起きることと思っている人も多い。実際そうなのですが、誤嚥の原因となる、のどの筋肉の衰えや老化は、40代からすでに始まります。のど仏の位置が下がってきたら要注意。また『水や食事でむせるのは乾燥のせい』と思いがちですが、むせることも、のどの筋肉の衰えのサインです」

 

誤嚥対策のために久野さんに、のどの筋肉の衰えを抑える「ゴエン予防体操」を教えてもらった。

 

■「準備体操」顔の表情筋を軟らかくする

 

(1)両手を頬の高角の横にあてて、ギューッと上に何度か持ち上げる。

 

(2)次に奥歯のかみ合わせのあたりにあてた両手の指を押しながら、前後にぐるぐる円を描くように回して表情筋をほぐす。

 

「体操前に、頬の筋肉を動かしての表情筋を軟らかくすることで『ゴエン予防体操』の効果をアップさせます。顔のお手入れのときにもやることで表情が明るくなり、むくみ防止にも」

 

■「寝ながら『カメレオン』体操」のみ込む力がつく

 

(1)ベッドやソファに寝たまま行う。

 

(2)カメレオンが飛ぶ虫を狙うように、舌を「ベーッ」と斜め上に突きだす。

 

(3)舌が軟らかくて下がっているのは×。硬いなら筋肉を使えているのでOK。口を閉じているときに、舌が内側の上あごについていないのは、のみ込む力が低下しているサイン。10回。

 

「味や温度を感じる、話す、口の中をきれいにすることに加え、舌には『食べ物を食道へ運ぶ』という大事な働きが。舌の筋肉を鍛えると、のどの筋肉も同時に鍛えられます」

 

■「アッハッハ体操」吐き出す力がつく

 

(1)肩の力を抜きリラックスし、笑うための準備として口元を「イーッ」と横に広げる。

 

(2)両手で頬を上に持ち上げ、同時に、おでこにシワができるくらいに目を大きく開く。

 

(3)そのまま、おなかから「アッハッハ、楽しいな。アッハッハ、うれしいな。アッハッハ、元気だな」という合言葉を元気に声に出して笑う。大声ではなく、声を遠くに飛ばすように。これで軽い誤嚥の予防となる。5回。

 

「声を出すための声帯は、のどの気管の入口にあります。おなかから声を出して声帯を動かすと、のどの筋肉が鍛えられます。繰り返しがちな誤嚥の負のサイクルは笑うことで解消。免疫力もアップできます」

 

■「フグ体操」息を吸う力をつける

 

(1)肩の力を抜いてリラックス。「せーの」と声を出して口を大きく開き、できる限りの息を吸い込む。

 

(2)吸い込んだら口を閉じたまま息を吐き、フグのようにプクーッと頬を膨らませる。このとき前歯の前にもしっかりと息を入れふくらませる。10回。たるみやシワの改善と若返り効果も。

 

「年齢とともに垂れ下がる顔の表情筋は、頬の内側、舌、のどにつながっています。息をたっぷり吸い、頬の筋肉を伸ばすことで舌やのどの筋肉、胸の筋肉が強化され、誤嚥予防に」

 

■「寝ながら『アザラシ』体操」息を吐く力をつける

 

(1)ベッドやソファに横向きに寝て膝は曲げておく。あごの下の軟らかい場所を両手の親指で押し上げる。

 

(2)両手のひらを合わせて口元を覆い、胸と膝を近づけて背中を丸めながら、手のひらの間に、勢いよく吹き矢を飛ばすように「フゥッ、フゥッ」と勢いよく短く息を吐く。10回。

 

「のどと頬、おなかの筋肉を鍛えるゴエン予防体操の大事な基本です。唾液腺を刺激して、おなかから息を吐くことで、唾液が出やすくなります。唾液は口の中の雑菌を殺し清潔にする働きも」

 

誤嚥を防ぐためには4つの力を鍛える必要があると久野さんは言う。

 

「誤嚥予防でいちばん大切なのは『のみ込む力』です。食べ物や水分をしっかりのみ切るために必要な、のどの筋肉を鍛えましょう。舌を鍛える体操もありますが、これをすることで、のどの筋肉も鍛えられます」

 

次に、軽い誤嚥が起きたときに必要なのが「吐き出す力」だ。

 

「むせたときに肺に入りきらないように吐き出す力は誤嚥を防ぐ“防波堤”になります」

 

さらに、息を吸って吐くという呼吸をしっかり行うことも、誤嚥を防ぐ可能性があると久野さん。

 

「しっかり息を吸って吐くことでのどや胸の筋肉まで鍛えられます。また、息を吐きながら大きな声を出すことで声帯が動き、のどの筋肉を鍛えることができます」

 

この予防体操は、何歳になってから始めても効果はあるという。

 

「早く始めれば始めるほど筋肉は鍛えやすい。特に40代からのどの筋肉を鍛えると、筋肉の衰えの回復も早く、10年寿命が延びるといわれています。起床後の体は、機能がいちばん低下しています。朝ごはんのときに誤嚥を防ぐために、寝起きのゴエン予防体操でのどや顔の筋肉を鍛えるのが効果的です。ご両親が健在なら、ぜひ一緒にやってみてください。この体操は、むくみ防止や表情が若返る美容効果もあります」

 

さぁ朝1杯の水を飲む前に、ゴエン予防体操で、のどを鍛えて健康寿命を延ばそう!

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