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「これまで『上(=収縮期血圧)140/下(=拡張期血圧)90』(単位=mmHg)といわれていた高血圧の基準が“見直されるのではないか”と注目されているのが、日本高血圧学会が4月に改訂する予定の『高血圧治療ガイドライン2019』。そこでは『上130/下80』未満まで、降圧目標値が引き下げられる方針なんです」(医療ジャーナリスト)

 

現在、日本には「上140/下90」以上の高血圧患者が推定4,300万人いるとされている。もし、それが「上130/下80」に引き下げられると、日本は6,300万人の高血圧患者であふれることに。すなわち“国民の2人に1人が高血圧”と認定されるが――。

 

新小山市民病院の理事長・病院長の島田和幸さんに、さっそく話を聞いた。日本高血圧学会の元理事長でもある人物だ。

 

「確かに勘違いしている方も多いのですが、高血圧の基準値は現状どおりの『上140/下90』で変わりません。今回、改訂される点は、それとは別に、“降圧目標値”という数字が新たに設定されるということなのです。この降圧目標とは、高血圧とは呼べないけれど、心臓血管病の発症するリスクが高まる領域にある人に対して、『生活習慣の改善が必要ですよ』と促すために設定されたものだと説明されています」

 

そうなると、血圧130という数値は、まだすぐに治療を始めるほどではないのだろうか?

 

「実はこの数字は、欧米で高血圧基準値の見直しが行われている、その“最近の流れ”を受けてのものといえます。アメリカでは、’17年にいちはやく『130/80』以上がすべて『高血圧症』と診断されるように基準が改訂されました。’18年には、欧州高血圧学会と欧州心臓病学会が、基準値を『140/90』で据え置いたまま、『降圧目標』を『130/80』未満に引き下げています。それらの大きな根拠となったのが、アメリカ国立心肺血液研究所が行った『SPRINT』という臨床試験の結果でした」

 

’15年に発表された「SPRINT」は、糖尿病のない高血圧患者9,361人を対象に実施され、投薬によって降圧目標を「上140未満」と「上120未満」の2クラスに設定してそれぞれの「心筋梗塞や脳卒中の発生率」と「全死亡率」を比較したもの。

 

上120未満の人は上140未満の人に比べて、心筋梗塞や脳卒中の発生率で約25%、全死亡率で約27%低いという結果が出た。

 

「この調査が、血圧は低ければ低いほど“健康で長生きできる”という理屈の裏付けになった。ただ、もし日本で『上130未満』と基準値を10も下げたら、大変な混乱が起きる可能性がある。だから今回は“目標値”として発表することになったのです」

 

この調査結果を知った人の中には、恐怖のあまり「すぐに降圧薬を処方して!」と病院に駆け込む“血圧130台”の人がいるかもしれない。そこで本誌は「高血圧の薬による家計の負担増」を試算してみることにした。

 

実務薬学総合研究所の薬剤師・水八寿裕さんが解説する。

 

「高血圧薬の処方として、通例では、まず安価なジェネリックも多いカルシウム拮抗薬が出されます。次に肥満傾向がある場合には利尿薬で体重増加を抑え、必要であれば、ACE阻害薬などが処方されます」

 

高血圧の薬はこの3分類の取り合わせが一般的だが、依然、血圧が高ければ、ほかの生活習慣病とひも付けて考えることが多い。

 

「それぞれ基準値を大きく外れるなどしていれば、抗コレステロールのHMG-CoA還元酵素阻害薬や糖尿病のビグアナイド製薬などが、追加されていくケースが考えられます。仮にこのような計5種類の処方ともなれば、病院での自己負担額と薬局での薬代を合わせて月3,000円近い治療費がかかることになるでしょう」

 

水さんは「3割負担で月額1,000円以上」になる場合、薬代の見直しが必要ではないかという。

 

「女性は更年期関連の薬、ご主人は肝臓や尿酸値の薬などが追加で処方されていけば、夫婦で月6,000円を超えるかもしれない……。薬剤師に相談するなどして、作用の有無も考えながら“本当に必要なもの”を検討すべきです」

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