食材と疾患予防に因果関係、鍵は「抗酸化」と「抗炎症」に

「女性の場合、大豆製品を種類多く摂取する人ほど、そうでない人に比べて、心筋梗塞や脳梗塞といった循環器疾患のリスクが34%、全死亡リスクが14%低くなる――」

 

今年3月、このような調査結果が国立がん研究センターから報告された。40~69歳の男女約8万人を20年近くにわたって追跡調査(コホート研究)したものだ。この研究を実施した大妻女子大学家政学部食物学科公衆栄養研究室の小林実夏教授は、研究内容についてこう説明する。

 

「調査では、対象者が133種類の食材を、1日に何種類摂取しているかを算出し、死亡リスクとの関連を調べました。魚、肉、野菜、果物、大豆食品などの個別の食品群についても同様の検討を行いました。男性は果物を、女性は大豆食品を種類多く摂取するほど死亡リスクの低下が見られました。特に循環器疾患については顕著でした」

 

国立がん研究センター、社会と健康研究センター予防研究部部長の井上真奈美さんは、このような早死のリスクを下げる食品について、次のように話す。

 

「これまで数多くの大規模調査を行ってきて『これさえ食べておけば大丈夫』という食品は存在しません。しかし、健康に影響をどう及ぼすかが、わかってきた食品も少しずつあります。まだ断定できるものは少ないのですが、大豆食品、緑茶、コーヒーは、その効果が明らかになってきています。野菜、果物も健康に何らかのよい影響のある食品だと推測しています」

 

死亡リスクを下げるには抗酸化、抗炎症作用の働きが必要不可欠というのは、お茶の水健康長寿クリニック院長の白澤卓二先生だ。

 

「がん、心筋梗塞、脳梗塞など死亡リスクを高める疾患の原因は、細胞の慢性炎症であるということがわかっています。加齢や酸化ストレスなどで細胞の炎症が進行すると、血管が弾力を失って硬くなり、心筋梗塞や脳梗塞の原因ともなる動脈硬化を引き起こすことになります。血管の硬直を防ぎ、弾力性を持たせること、また血中のコレステロールを抑えて血流をスムーズにすることが重要なのですが、それには抗酸化作用や抗炎症作用のある食品を取る必要があるのです。たとえば、ビタミンA、C、Eに含まれる抗酸化成分は酸化ストレスや細胞の炎症を抑える働きがあり、ビタミンB群は細胞のストレス耐性を上げてくれます。また、食物繊維には腸の働きを活性化させ、腸内環境を整える働きもある。野菜や果物には、こうした栄養素が多く含まれるものが多いのです」

 

さらに、野菜、果物には副次的な作用もあるのだとか。

 

「野菜や果物を取る人ほど幸福感が高い状態が保てるということがわかっています。野菜や果物には“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンなどの脳内物質を分泌する働きを持つものも多く、それも病気を遠ざける要因のひとつになっているのではないかと推測しています」(白澤先生)

 

今回の研究では、「1日に摂取する食品の種類が多いグループは、少ないグループに比べて全死亡のリスクは19%、循環器疾患死亡のリスクは34%、その他の死亡リスクは24%低い」という結果も出ている。小林教授はこう話す。

 

「昭和60年ごろに当時の厚生省、文部省、農林水産省が合同で出した食生活指針では『1日30品目を食べましょう』と言われていましたが、実は、この『30品目』の根拠はわかっていませんでした。私は、当時から30品目の裏付けが欲しいと思っていたのですが、約20年たって、多目的コホート研究という長期間に及ぶ追跡調査で、それを検証できると思ったのが、今回の調査のきっかけでした」

 

調査では1日30品目以上食べた人と30品目以下の人との比較も行った。

 

「30品目以上食べた人のほうが、循環器疾患のリスクおよび死亡リスクが低く出ました。これで、1日30品目の健康に及ぼす好影響が証明されたことになります」(小林教授)

 

小林教授はこう加える。

 

「今、日本が世界でもトップクラスの長寿国なのは、今の高齢者たちのこれまでの食生活が優れていたことの証明です。大事なのは、さまざまな食材を種類多く取るということです。たとえば、野菜を1日350グラム取りましょうといっても、キャベツだけで取るのは大変です。いろんな種類を50グラムずつ取ると取りやすいですし、さまざまな栄養素が相互に作用し、それが病気のリスク分散にもなります。今回の研究が、買い物時などに、『昨日はこれを食べたから今日は別のものにしよう』といったふうに、食材を選ぶときのきっかけになり、それが健康増進につながってくれればと思っています」

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