■乳がんの死亡率が高い奈良県
このような死亡率の差は部位別にも存在する。女性の死亡者数がもっとも多く、生活習慣が深く関わっている大腸がん。もっとも死亡率の高い青森県にくらべ死亡率が半分以下だったのが高知県だ。
「高知は飲酒量の多いイメージがありますが、実は女性の飲酒量は全国平均よりも低く、生活習慣病も少ないです。
芯が強くしっかりした高知の女性は“はちきん”と呼ばれ、共働きが多く家を守る意識も高い。早期に発見して治療すれば生存率の高い大腸がんに対しても、毅然と“はちきん”精神で前向きに臨んでいるのでは」(高知県がん担当者)
喫煙がリスクを高める肺がんで死亡率がもっとも高かったのは北海道。道の担当者が語る。
「北海道では女性の喫煙率が14.8%で、肺がんの罹患率と合わせて全国ワースト1位。広大で自由な風土の中で、女性の行動も自由な傾向にあるため喫煙率が高いとも言われていますが……。
受動喫煙対策とともに、女性の禁煙支援やたばこの健康影響など啓発に取り組んでいきます」
また、2年に1度のがん検診が推奨されている乳がんの死亡率が低い鳥取県。しかし、’19年の乳がん罹患率は全国ワースト8位だ。
「鳥取県の女性の乳がんの検診受診率は’19年で43.7%と全国平均よりも少し低いのですが、検診結果で、精密検査となった際の受診率が94〜95%と、全国平均(85.1%)よりも高いのが特徴。
診断されるのが怖いからと放置することなく、詳しい検査をして積極的に治療に当たっていることが死亡率の減少につながったのではないでしょうか」(県担当者)
一方、乳がんの罹患率では鳥取県よりも低かった奈良県が死亡率ではワースト2位になっているのはなぜだろう。
「死亡率が高い要因にはたどり着けていませんが、奈良県は共働き世帯の割合が低く、全国でもっとも専業主婦が多い。企業のがん検診を受けていないことが影響しているのかもしれません」(県担当者)
これらの都道府県の差から見えてくるのは、健康的な生活にくわえて、がん検診に行き、精密検査となったら早めに受診すること、そして万が一にもがんが見つかった場合はきちんと通院することが、がんによる死亡率を下げるのにつながるということだ。
最後に松田先生が語る。
「がんの死亡率を下げるには、がんを早期に発見して、迅速かつ適正な治療へとつながる仕組みが重要。ランキングを見て一喜一憂するのではなく、がんで亡くなりやすい地域とそうでない地域を比べて、がん予防のヒントを見つけることが大切なのです」