雨模様の日が続くなか、自宅のカビ対策に頭を悩ませている人も多いだろう。
「梅雨から夏にかけては高温多湿で、家の中に皮脂やほこりなどの汚れがたまると、そこにカビが繁殖していきます。カビの種類は8万〜10万種あるとされており、そのうち私たちの身の回りにあって危険なものは10種類ほど。人は1日1万個ぐらいのカビの菌を吸っているといわれています」
そう話すのは千葉大学真菌医学研究センターの矢口貴志准教授。衛生面で発生させたくないカビだが、矢口准教授によれば、気づかぬうちに健康を脅かすこともあるという。
「高齢者や喫煙者、また病気などで免疫力が落ちている人がカビの胞子を大量に吸い込むと、せきやたん、くしゃみ、鼻水といった呼吸器系のアレルギー症状を引き起こします。さらに胞子が肺の中まで到達すると肺炎に至ることも」(矢口准教授、以下同)
この時季、せきやたん、微熱などは“夏かぜ”と思ってしまいがちだが、じつはカビが原因のケースもあるのだという。
「『トリコスポロン』という白カビによる『夏型過敏性肺炎』です。かぜのような症状ですが、1カ月以上不調が続くほか、空ぜきが出る、喉に痛みがないのが特徴です。この白カビは古い日本家屋、浴室や洗面所にある木製の棚やドア、畳の裏、また観葉植物などに繁殖します。秋になって湿度が下がると、カビが減るのに伴い症状も治まるためあまり気に留めない人もいるようですが、毎年繰り返していると、肺の機能が徐々に弱ってしまいます」
梅雨後半から夏本番にかけて、家の中は白カビのほかにさまざまなカビが発生しやすくなり、それが原因となる病気も増えてくるという。カビが引き起こす主な疾患と、気をつけるべき“カビの温床”を解説してもらった。
まず、空気のよどんだところや、部屋の隅にたまるほこりの中、エアコンのフィルターなどにつきやすいのが「アスペルギルス」。
「過去に結核など肺の病気にかかったことがある人で、肺の傷にカビが定着し、菌が増えてしまったというケースもあります。肺の機能が低下すると呼吸不全を起こすこともあるので、免疫力が低下した人だけでなく、呼吸器疾患がある人や新型コロナにかかり重い症状で苦しんだ経験のある人は注意が必要です」
エアコンの風はカビを部屋中にまき散らすので、週に1度はフィルターの掃除を心がけよう。カビは土の中に多く生息している。そのため靴から玄関に移って屋内へ侵入してくることも。家に入る前に靴の汚れを落とし、汗で蒸れた靴はすぐに靴箱に入れずに、乾かしてから収納しよう。
呼吸器疾患のほかにも、皮膚にカビが付着することで病気になることもある。浴室のタイル目地や排水口、洗濯機の裏側などに潜む「エクソフィアラ」という黒いカビは、手足のひっかき傷などから感染してしまうことが多いという。
「傷口からカビが入ると炎症を起こして腫れていき、痛みやかゆみなどの症状が出ます。血管へ侵入して全身に回ると、臓器に転移、重症化してしまう恐れもあるので、ふろ掃除の際はゴム製の手袋をつけましょう。また、家族が水虫を持っていた場合にバスマットを介してうつる可能性が。これは白癬菌というカビが原因で、水ぶくれ、かぶれによるかゆみ、ひび割れによる痛みを伴います」
さらに、部屋の中だけではなく、毎日持ち歩いているものにもカビが潜んでいるというーー。
「たとえば、イヤホンを長時間耳につけて音楽を聴いている人も多いですが、耳の中が蒸れて、そこにカビが生えることがあります。するとかゆみなどが起こり、外耳炎、中耳炎になり重症化すると耳だれを起こすこともあるので、耳の中に湿気がこもらないように適宜空気にふれさせ、イヤホンは清潔に保ちましょう」
なんと化粧ポーチも、盲点になりやすいアイテムの一つ。
「綿の生地のものは湿気を含みやすく、ファンデーションのスポンジなどについた皮脂から脂を好むカビ、マラセチアが繁殖して皮膚炎を起こすことがあります。こまめに洗いましょう」
思わぬところでカビに健康を害されることのないよう、身の回りをきちんと点検しよう。