では、どのように腸が脳に作用するのだろうか。 「腸と脳とは“脳腸相関”といって、腸内細菌叢が互いの機能に影響を及ぼすことが報告されています。特に便の腸管での通過時間の遅延が関係するようです。
便が長時間、腸内にとどまっていると、腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸が減少し、腸壁が薄くなります。それが酸化ストレスを引き起こし、また、全身性の炎症を発生させます。
これが、排便習慣が認知症のリスクと関係する一つの理由と考えられています」
腸内細菌が脳の迷走神経(脳神経のなかで唯一、脳から腹部にまで達し、複雑で長い走行をする神経)に影響を及ぼし、さまざまなストレスを伝えることも報告されている。
排便と認知症リスクに相関があることがわかると、やはり排便を習慣化させる重要性は無視できない。それには生活習慣の見直しが大切だ。
特に前述のように、女性は若い世代から便秘に悩まされる傾向があり、さらに高齢になるほど便秘傾向の人が増える。腸の動きが不活発になったり、便を押し出す力が低下したりすることに加え、水分摂取量が減少したりと、体内機能の衰え以外にも生活習慣上のさまざまな理由がある。
予防策としては、生活リズムを整えた規則正しい生活、ウオーキングなど日々の適度な運動、バランスのよい食事を取ることが重要だ。1日3食を規則正しく食べることにより、生活リズムが整い、自律神経も整う。特に朝食を取ることは胃腸を刺激し、排便を促すことにもつながるので、ぜひ習慣づけよう。
また、日々の食事には、食物繊維をしっかり取り入れること。豆類、きのこ類、根菜類などの野菜に豊富に含まれる不溶性食物繊維、ワカメなどの海藻類に多く含まれる水溶性食物繊維の両方をしっかり取ることで、腸内細菌叢にもよい影響を及ぼし、便通が促進される。
そして、つい忘れがちだが、水分をしっかり取ることも心がけよう。便がやわらかくなることに直結するからだ。
それでも便秘が続いたり、不調を繰り返す場合は医療機関へ行って、適切な処置を受けよう。早めの受診で、腸から起こるさまざまな不調に対処し、長期的な健康も守ろう。