■医療・介護関係者が「認知症のがん患者」の知識の共有を
一方、認知症を理由に病院の緩和ケア病棟から入院拒否されてしまったのが、70代男性のケースだ。
「進行期の胃がんで、あえて言えばステージIVの段階。かなり痛みと倦怠感があり、積極的に治療する段階は過ぎていましたので、ご家族が自宅近くの病院の緩和ケア病棟を探して、私が紹介状を書いたんです。しかしその病院の緩和ケア医師から『認知症のある方は入院できません』と」
身の回りや薬の管理は難しいが、徘徊はない。でも受け入れられなかった。家族にとっても、非情な拒絶に映っただろう。結局、療養型の地域包括ケア病棟に入院した。
えびな脳神経クリニック理事長で、同院認知症疾患医療センター長を務める尾﨑聡医師はこう言う。
「認知症のがん患者さんが、受け入れ態勢が整わず入院・入所できないケースは、実際よく起きます。
認知機能が低下するほどご自身の症状を訴えにくくなるため、医療側もがんの発見や病状の進行などに気づきにくくなってしまう。
逆に、認知症の人を受け入れる側の施設からは、医師や看護師が常駐していないなどの理由で特殊な薬を出す責任が持てないと、断られることがあるんです」
今回の調査報告を総括し、小川医師は次のように要望する。
「全国の医療・介護関係者が『認知症のがん患者さん』の知識を共有してほしい。高齢者施設にがんの知識を持つスタッフ、がん病棟などに認知症の知識を持つスタッフをそろえる必要もあると思います」
では、私たちはどう考えるべきなのか。尾﨑医師はこう話す。
「認知症の方が本当はどんな治療や入院先を望んでいるのか。本人を代弁するつもりで、ご家族も、一緒に考えてあげてください」
認知症もがんも、本人はもとより、支える家族の心労が重なってしまう。できる限りの準備を、怠らないようにしたい。