日常の変化を見逃さないことがとても重要だ(写真:アフロイメージマート) 画像を見る

「80歳の母親が、お鍋を焦がしてしまうなどの失敗を頻繁に繰り返すようになり、病院で初めて認知症の検査を受けたところ、“アルツハイマー型認知症”と診断されました。

 

じつは4~5年前から、もの忘れは始まっていたのですが、生活に大きな支障はなかったので受診しなかったんです。医師からは、すでにかなり進行している状態だと言われ……。もっと早い段階で検査を受けるべきだったと後悔しています」(兵庫県在住、50代主婦

 

2025年には75歳以上の人口が全体の約18%を占める超高齢社会のニッポンで、深刻な社会問題となっているのが、年々増加している認知症患者の数だ。厚生労働省の最新データによると、’40年には65歳以上の高齢者の約15%にあたる584万人が認知症になると推計されている。

 

そんななか、非常に注視すべき衝撃のデータが発表された。9月19日、太陽生命少子高齢社会研究所が、1万8千110名(30代~70代の男女)を対象に行った「認知症に関する調査」だ。同調査によると、“家族が「今思うと、あのころから認知症だったかもしれない」と思った時期から、医療機関で認知症と診断されるまでにかかった期間”は、平均で16.2カ月にもなることがわかったのだ。

 

さらに、病院を受診させようと思ったタイミングから、実際に受診させるまでの期間は平均11.6カ月だったことも同時に明らかとなった。

 

「認知症かもしれないと思ってから診断されるまでの期間が16カ月というのは、専門医の立場からすると、遅いと言わざるをえません。ですが、臨床の現場でご本人やご家族とお話をすると、診察までの期間は実際にはもっと長いケースも。5年ぐらい前から気づいていたということも頻繁にあります」

 

こう語るのは、日本認知症予防学会代表理事で、鳥取大学医学部の浦上克哉教授だ。検査を受けるまでに、なぜこんなにも“放置”されてしまうのか。その背景には、認知症に対する理解がまだ十分でないことが挙げられる。さらに、できれば病院には行きたくないという、本人や家族らの抵抗感などもネックになっているという。

 

「家族が病院に連れて行こうと思っても、本人が怒って拒否するというケースは多いです。また、家族も元気なときの本人の姿を覚えているため、認知症の疑いがあっても認めたくない、と思ってしまうこともまだまだ多い。さらには、もし認知症だとわかったとしても、どうせ治すことができないという考えから、受診をためらったり、先延ばしにするケースも少なくありません」(浦上教授、以下同)

 

たしかに、現在までに認知症に対する根本的な治療法は確立されていない。しかし、症状が軽度である場合は、早期に治療を施すことで発症を遅らせたり、脳機能の回復・改善が見込める可能性があることが明らかになってきている。

 

「手遅れにしないためには、もの忘れや意欲の低下といった、これまでにはなかった日常の“変化”に気づくことがとても重要です。本人や家族が何か異変を感じたら、MCI(軽度認知障害)を疑いすぐに受診する。それが認知症予防につながります」

 

太陽生命少子高齢社会研究所の同調査では、MCIという言葉、そしてMCIの段階で治療すると回復の可能性があることを知らないと答えた人は、全体の70%以上にものぼった。認知症に対する理解は昔に比べて広がってきてはいるものの、十分な認識には至っていない部分もあるようだ。では、見落としてはいけない認知症の疑いには、どんな“異変”が挙げられるのだろう。

 

「もの忘れが増えてくる、怒りっぽくなる、そしてこれまでやったことのない失敗を繰り返す、などが典型的でしょう。用事を頼んだのに忘れてしまうことが頻繁にあるなどです。女性の場合だと、以前に比べて外出の際に化粧をすることがめっきり減る、服装に気を使わなくなる……といった変化も認知症を疑うシグナルになります」

 

アルツハイマー型、レビー小体型認知症の場合は、においがわかりにくくなる“嗅覚機能障害”もあるという。

 

「たとえば、料理中に鍋が焦げていても気づかない、室内に花を生けても香りに気づかないなど、においを感じにくくなったら注意したほうがいいでしょう」

 

だが、家族が異変をキャッチしても、患者本人が素直に病院で検査を受けてくれるとは限らない。絶対やってはいけないのは、ダイレクトな物言いで検査を強要すること。本人を怒らせてしまったら、せっかくの早期治療のチャンスを逃してしまうからだ。 家族を思っての行動がトラブルの引き金にならないためにも、よい説得方法はないのか――。

 

「最近多いのは、夫に認知症の疑いがある場合、妻が『最近もの忘れがひどくて、認知症かもしれないから病院へ検査に行こうと思っているの。心配だから一緒に来てくれない?』などと、自らの付き添いを頼むという方法です。

 

病院で妻が『せっかくだからあなたも一緒に検査をしてもらったら? 私も安心できるから』といった具合にアプローチすれば、波風も立ちにくいでしょう」

 

大切な家族に異変が見られたとき、早期治療によって改善につなげるためにも、小さな変化の“見て見ぬふり”はくれぐれも禁物だ。

 

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