■手術前の説明・検査が十分になされているか
実は記者にも心当たりが。数年前にインプラント治療を受けようと都内のクリニックを受診したときのこと。歯のレントゲンを撮ってから、派手なネイルの女医が登場。いきなり手術の手順と金額の説明をし始めて、手術日の予約をすぐ決めるように促したのだ。「いったん、考える」と言ってクリニックから出てきたが、このように手術をせかすクリニックは多い。
■術後の検診でアゴの骨が腐食し、砕け始めていた!
国民生活センターに寄せられた埼玉県に住む80歳・女性の例は、事前検査を怠った典型例だ。
この女性によると、数年前に歯科医師の勧めで、健康な歯をすべて抜いてインプラントにした。治療後の定期検査を受けたときに、レントゲン画像を見た医師から「何か薬を飲んでいるのか」と聞かれたので「骨粗しょう症の薬を飲んでいる」と答えたところ、「自分の手には負えないので大学病院に行くように」と紹介された病院に行くと、「アゴの骨が腐食し、砕け始めている」と知らされた。
「事前検査が不足していた典型例です。検査では問診や歯のレントゲンだけでなく、血液、唾液の検査、さらにCTで骨量・骨質を調べます。なぜかというと中高年以降の女性は更年期を迎えると、骨の質がガクンと変わってくるため。アゴの骨に土台を作るので、骨質が悪いと手術ができないのです。
■マニュアル化した説明で、見逃されることも!
インプラント治療の説明は医師ではなく、歯科衛生士も行っていいことになっているので、マニュアル化してしまい、個々の体調などを見落とす恐れもあります。
骨粗しょう症のほかにも、糖尿病患者は歯周病になりやすく耐用年数が短くなる恐れがあります。ほかにも、心疾患、肝疾患のある人はリスクが高くなるので、持病の有無、常用薬は必ず聞きます」
■術後のトラブルは中高年女性に集中
また、痛みや手術後に物がかめないという苦情も多数、国民生活センターに寄せられている。
「インプラントの治療後、歯茎が腫れている」(50代・性別不明)
「手術後、のどの痛みやアゴの腫れがあり入院した」(50代・女性)
「インプラントの治療後、蓄膿症になり、セカンドオピニオンを求めたら『鼻の空洞にインプラントが刺さったため蓄膿症になっている。早くやり直さないと骨がダメになる』と言われた」(50代・女性)
「私のところにはセカンドオピニオンを求めて『食べ物がかめない』『蓄膿症になった』『アゴや頭が痛い』といった症状を訴える人が来院されます。かみにくいと感じたり、痛みが出たりするのは、土台の埋め込みが不適切だったことなどが考えられます。事前にCT検査などが徹底されなかったので、不具合が生じた可能性があります。
大事なのは歯科医師の専門性や経験、患者とのコミュニケーションです。インプラント治療の場合は、メンテナンスを含めて長い付き合いになるので、医師と患者の相性や信頼関係がとても重要となってきます」
トラブルに遭わないためには、インターネットなどで安直に選ばず、歯のかかりつけ医で紹介してもらうのも手だ。高い治療費なのだから、クリニック選びは慎重に。
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