「姉の天光光が亡くなり、私も急に老化が進みました。それまでは、姉を介護しなければという思いで気持ちに張りがあったんです。介護している10年間は自分のためにだけ生きるより、ずっと楽しゅうございましたよ」
そう静かに語り、品よくほほ笑むのは93歳の脳神経医学者の松谷天星丸さん。彼女は82歳から10年間、3歳上の実姉・園田天光光さん(享年96)と姉妹2人で暮らした。天光光さんは、日本初の女性衆議院議員であり、園田直元外相の妻としても知られる。80代になると、骨折や肺炎、糖尿病などの病気を患い、死のふちを何度ものぞいてきたという天光光さん。
体重38キロの妹が、滑って転んだ58キロの姉を抱えようとして骨折し入院したこともあった。90代が90代の介護をする「老老介護」の末、’15年1月、姉は天寿を全うした。その体験をつづった『96歳の姉が、93歳の妹に看取られ大往生』(幻冬舎)が発売され静かな感動をよんでいる。
そんな天星丸さんが「少しでも介護の参考になれば」と、本誌に「老老介護の心得5」を語ってくれた。
【心得1】耳の遠いもの同士はベル音を合図に
「用事があるとき声に出して呼んでも、耳が遠いもの同士は聞こえません。そこで姉の部屋に音の出るブザーベルを付けました。私はそのセンサーを持ち歩き、どこでも呼び出しのベルの音が聞けるようにしました」
【心得2】年をとったら、きょういく(今日行く)ときょうよう(今日用)が必要です
年を重ねた人にとって「今日行くところがある」「今日する用事がある」ことが脳の活性化にもつながっていく。
「介護人の私は、毎日の食事の支度など用事が山ほどあるので段取りを考えます。これが認知症予防にもなり、生活の張りになりました」
【心得3】褒めて褒めて、感謝する
「年齢を重ねると指も動きにくくなります。寝間着の小さなボタンを姉が自分で留めた時には『すごいわね。これができるのは脳の機能が活発なのよ』と褒めてケアしました。『お姉さま、ありがとう。そこまでやってくださると私たちも楽だわ』と感謝も必要です。褒める、そして感謝すると、その人の“できる”幅が少し広がるんです」
【心得4】自分をはげます言葉を持とう
「『宿命じゃ!』。これは大河ドラマ『風林火山』で武田信玄(市川亀治郎・現在の猿之助)が叫んだ一言。このせりふが心に響き、私を支えてくれました。『どうして私が?』という思いが湧いたとき、この言葉を声に出すと腹が据わりパワーが戻ってきたの(笑)。父、母、姉、妹と家族を看取った私は家族の看取り人。それを『宿命じゃ』と受け入れています」
【心得5】できることを一生懸命、できないことには目をつぶろう
「糖尿病の姉には、“肉は食べない、野菜、みそ汁、煮物は嫌い”という偏食もありまして(笑)。病院から処方された献立を姉好みにアレンジしていました。姉にもう一品つくりたいと思っても、調理中の立ち仕事で足が疲れ自分の体に負担だと思うと、“できないことは目をつむろう”と無理はしませんでしたね」
現在、天星丸さんは要介護1。買い物などはヘルパーさんにお願いしているという。
「老いは足からといいますね。それでも身の回りのことはできるだけ自分でしようと思います。これからの生きがいを見つけて、老いていく体と仲よくつきあいながら人生を全うしたいと思っております」