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「宗派、国籍にとらわれず幅広い信徒が集まる“みんなのお寺”を標榜し、4年前に檀家制度を廃止、ゆうパックによる送骨(お骨を送る)サービスも承っています」

 

そう語るのは、日本一の“暑さ”を競う埼玉県熊谷市で、400年もの歴史を持つ仏教寺院曹洞宗「見性院」の23代目住職、橋本英樹さん(51)。敷地内には、《居士・大姉 導師1人30万円》と「お布施一覧」の看板が張り出されている。このお布施の“定額化”も橋本さんのアイデアだ。

 

「“お気持ち”を金額に表したのですから、ほかの寺からの反発はあります。日々、仏教界のタブーを犯しているので、怪文書まで出回る始末です。革新的なことをすれば、必ず軋轢は生まれます。でもその変化を恐れていたら、近い将来、日本のお寺は必ず立ち行かなくなる。それほど、追い詰められているんです」

 

お寺は全国に約7万6,000箇寺あり、約5万店のコンビニ店の数よりも多い。

 

「全体の16%の寺には常駐する住職がいません。地方に行けば、“廃寺”と化しているお寺も珍しくない。ではなぜ“寺離れ”が起きたのか。それは仏教界が、人々の葬儀や寺、お墓に対する価値観の変化についていけず、何の対策もしてこなかったからです」

 

では、“尊敬されるお寺”を取り戻すためにはどうすればいいのか。

 

「葬式の相場はあってないようなもの。同じ葬式が150万円になったり200万円になったりします。見積りで『200万円です』と言っておきながら、請求段階で10万、20万と上乗せしてくるケースも多い。しかも、もっともらしく端数入りの数字が並んでいたりします」

 

10年ほど前、ある葬儀に派遣されたときに、80万円のお布施をもらったが、仲介僧侶や葬儀業者にマージンが渡り、橋本さんの手元に残ったのは25万円だったという。

 

「違和感があったんです。ご遺族の気持ちを無視しているといいますか、知らないところで“勝手に分ける”その感覚に」

 

そこで、仲介手数料を発生させないように、可能な限り業者を入れない葬儀を目指した。

 

「会場の設営や、お弁当や花の発注など、霊柩車の運転手以外は全部寺で請け負っているので、だいぶ安くできている自負があります」

 

安さばかりを追求しているわけではない。一般的には避けられている「本堂に遺体を入れる」葬儀も行っている。

 

「セレモニーホールでは経験できない荘厳さがあります。寺が“業者と競い合う”ことで、良質な葬儀を提供できる機会が増えると思っています」

 

また「見性院」では、入口にある《心得》には、《ゴルフ、釣りはしない事》《高級車に乗らない事》など、戒めが掲げられている。

 

「経営が厳しくなったとはいえ、いまだに儲け重視の僧侶がいることは確か。そういった僧侶が集まれば駐車場はモーターショーのようになり、話題といったらゴルフのことばかり」

 

高級時計は当たり前。釣り好きが高じて、クルーザーまで所有する強者もいるという。

 

「寺格(寺の格)が高いと、戒名1つで200万円、葬儀で1,000万円くらいはザラ。本来“浄財”というきれいなお金であることを忘れ、高級外車を経費計上する僧侶もいます。先日もウチに相談に来た方に聞いたのですが、ある寺で『お金がないので葬式はやれません。納骨のときのお経だけお願いしたい』と言ったら、僧侶が『ふざけんな、お前!』と品位に欠ける言葉で責め始めたと聞きました」

 

多くの真っ当な僧侶は「出せるだけでよろしいですよ」と言ってくれるのだろうが、こういう悪徳僧侶が“寺離れ”の1つの原因かもしれない。

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