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《わが子終わった、ごめん》

《高学歴の男性と結婚しても意味ないじゃん》

《どうしよう……私、アホでマヌケで。旦那は頭いいのに……》

 

インターネット上に吐き出された母親たちの悲痛な声の数々……。彼女たちをパニックに陥れたのは、ネットで紹介された遺伝にまつわるこんな新説だった。

 

《知的能力は父親ではなく、母親から受け継がれる》

 

もともとはアメリカのニュースサイト「サイコロジースポット」に掲載されたジェニファー・デルガド氏が書いた記事だが、いまや世界各地で転載されているのだ。デルガド氏の記事は、次のような内容だった。

 

《……研究結果によると、父親の遺伝子を持つ細胞が蓄積されるのは、気分や本能をつかさどり、飢え、攻撃性や性的衝動を制御する大脳辺縁系。母親の遺伝子を持つ細胞が蓄積されるのは、記憶、思考、音声そして知覚といった認知機能をつかさどる大脳皮質……》

 

やや難しいが、子供の知的能力は母親から遺伝し、攻撃性や衝動といった本能は父親から遺伝することが判明した、ということのようだ。知性にまつわる遺伝子は、母親から子に受け継がれたときにのみ機能するのだという。そして記事には、その結論の根拠となる大学の研究などについても書かれていた。

 

“IQ(知能指数)の高さは、母親の能力次第で、父親は関係ない”、そんな衝撃学説に、いちはやく反応したのが母親たちだった。

 

はたしてこの学説について遺伝の専門家たちは、どう考えているのか?同志社大学生命医科学部医生命システム学科の石浦章一教授はこう話す。

 

「確かに特定の病気については、母親由来の遺伝で発病するものがあります。これは父親由来では発病しないんです。しかし、そういう病気以外で、知能に関して父親の遺伝子がオフになる(伝わらない)という説は、私は聞いたことがありません」

 

石浦教授によれば、人間は2万個くらいの遺伝子を持っていて、そのうちの半分の約1万個の遺伝子の組み合わせで頭脳の賢さが決まっているのだそうだ。ほかにも重要なのが子供の脳が形成される幼児期だという。

 

「子供の“頭のよさ”は、遺伝といった先天的な要素よりも、教育や環境などの後天的な要素が大きいと見られているのです。子供の脳の神経細胞がもっとも発達するのは1歳から2歳にかけてです。このときに脳神経が爆発的に発達し、その後、数年かけて余計なものを整理し、10歳くらいで神経細胞は必要な数まで下がり安定します。1〜2歳のときの神経細胞を増やすことが重要なので、そのためには、この時期に十分な栄養をもらっている必要があります。さらにその後は、脳神経のつながりを形成するための知的な刺激を受けることが重要になります」

 

知能の発達には後天的な影響が大きく、乳幼児期に十分な栄養を与えられているかどうか、そしてそのころの親とのスキンシップやアイコンタクト、会話などが大切。5歳あたりから10歳くらいまでは多様な経験をさせること、本の読み聞かせや、虫取りなどの自然体験、博物館めぐりなどを通して親子でのコミュニケーションをとるようにするのがいいという。

 

「幼少期、子供は母親と時間を過ごすことが多く、そういった意味では、子供の知能への母親の影響力は大きいと思います。だからといってアメリカで報じられた学説のように“父親は関係ない”ということではないのです」

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