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ビジネス書を中心にこれまで50冊以上の本を出版、その累計は200万部を超える作家兼営業コンサルタントの和田裕美さんが、11月7日に初の小説『ママの人生』(ポプラ社)を上梓した。営業時代に世界142か国中第2位の成績を収めた経験をもとにしたビジネス書や自己啓発本の著者として高い評価を得ている彼女だが、記念すべき小説1作目のモチーフに選んだのは“最愛の母”だった。

 

なぜ、ビジネス書の作家が小説に挑戦したのか。そのきっかけは、ビジネス書作家であるからこそ、拭い去れない思いに悩んだからだった。

 

「今までビジネス書ばかりを書いてきた私が小説なんて……なんておこがましいんだって自分でも思います。でも『こうしたらいいよ』と教えるビジネス書には『How to』こそあれ、『なぜそうなるのか?』『なぜそう感じるのか?』という『Why』がない。そして今の時代にもっとも大事なことは『なぜ?』と自分の頭で考えることです。私自身が小説からそれを学んできたからこそ、同じように小説という表現で伝えたいことがあったんです」

 

物語は、スナック・シャレードを切り盛りしながら自由に生きるママと、娘・ほのみを中心に展開していく。家庭がありながらも他の男性と恋をしたり家を出て行ったりと破天荒なママだが、誰に対しても愛情深くてかわいらしいキャラクターが読者の心に自然と入ってくる。そんなママのモチーフになった母について、和田さんは言う。

 

「実際の母も小説のまま自由な女性でした。とはいえフィクションですから創作も入っているんですが、私の姉がこの本を読んだときにすべて事実だと思ったらしいです。小学校5年のほのみがママにヌード写真を撮られるシーンが冒頭にあるのですが、あれは本当の話なんですよ(笑)」

 

主人公のモチーフにもなっている実母は‘96年、53歳という若さで亡くなった。和田さんは以前から「いつか母のことを書いてみたい」と思っていたという。そして’15年に実父も他界したことが、小説『ママの人生』を生み出すきっかけとなった。

 

「父が昨年81歳で亡くなったことはとても大きかったと思います。それまで『母の小説を書きたいけど、父は怒るだろうな』という思いがあったので。別れは悲しいですが、その出来事が背中を押してくれた。そして、1年ほどで書き上げることができました」

 

物語の中でママがほのみに語る言葉は、ビジネスの現場でも通用する名言の宝庫だ。和田さんも、自身の営業時代をこう振り返る。

 

「新入社員時代は貧乏だったし、仕事も大変。ごはんが納豆ともやしだけの時期もありました。でもそんなときに支えになったのは、母の言葉でした。幼いころから母には“お金はありすぎても困らないけど、お金がないと人間関係に亀裂が入る”とずっと言われてきました。悲しいことだけど、ビジネスの世界ではお金のトラブルがたくさんある。それを体感したときに母の言葉は正しかったんだと思い、踏みとどまって結果を出すことができた気がします」

 

厳しい言葉をかけながらも、愛情を注ぎ続けてくれた。そんな実母の言葉が和田さんを強くしたという。

 

「小説で『どうぞ、グレてください。あんたがそうしたいんやったらママはそれでもええねん。そやけどな、誰が損すんの?』というセリフがありますが、あれも本当に言われた言葉。当時、小学生だった私には衝撃でした。でも、それは見捨てているのではなく、“どんなあなたでも愛している”という母の深い愛だったのだと思います。そうした母の言葉が、もともと引っ込み思案だった私に自信を持たせてくれました」

 

激しいママの生き様に、ときに驚き、ときに笑い、そして泣く。読み終わるころには、なんだか前向きになれる。多くの人々の背中を押してきた和田さんだからこそ書ける、この小説。最後に「お母さんが読んだら何て言うと思いますか?」と聞いたところ、彼女は笑ってこう答えた。

 

「もし、母が生きていたら、“やめて~!恥ずかしい!”なんて言いながら、一生懸命宣伝してくれると思います(笑)」

 

最強で最愛の“ママ”は、今も彼女の中で生き続けている。これまで和田さんの本を愛読し、講演会にも参加してきたという女性はこう言っていた。

 

「和田さんの本や講演に触れると『すぐやろう!やってみよう』っていう気にさせられるんです。でも今回の小説は『立ち止まって、ちゃんと自分が感じていることを確かめてみて』って言われているような気になりました。人の評価ではなく、自分が感じていることをしっかり見つめ直した先に答えがあるんだよって」

 

この小説には行動を促すのではなく、「立ち止まる自己啓発書」という側面もあるのかもしれない。

 

『ママの人生』ポプラ社より発売中(税込1,400円)

 

和田裕美(わだ・ひろみ)

作家・営業コンサルタント。京都府出身。23歳のとき外資系教育会社でフルコミッション営業に就く。競争社会のなか試行錯誤を繰り返した末「お客様の98%から契約をいただく」という偉業を達成。世界142カ国中2位の成績を収める。’03年に『世界No.2セールスウーマンの「売れる営業」に変わる本』で作家デビュー。現在はビジネス書から絵本、小説と幅広く執筆。代表作は『人に好かれる話し方』、『人生を好転させる「新・陽転思考」』など。

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