「諸外国と比べ、日本の女性は家事をしすぎです。このままでは、国が滅ぶといっても過言ではありません」
そう警鐘を鳴らすのは、翻訳家として海外事情に精通している佐光紀子さん。昨年11月に『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』を出版し、話題を集めている。
「日本の女性が家事をしすぎてしまう理由は2つあります。1つ目は、夫が家事をせず、負担が妻に偏っていること。『日本は世界一、夫が家事をしない国』というデータもあります。またOECD(経済協力開発機構)の統計でも、夫の家事分担率は世界平均の半分以下です」(佐光さん・以下同)
日本同様に家事分担率が低かった韓国は、最近、女性の活躍によって意識が変わりつつある。日本だけが取り残されてしまう傾向にあるという。
「2つ目は、日本人が求める家事のレベルが高すぎること。海外と比べて、『完璧にやらないと』という意識が強く、手間をかけすぎる傾向にあります」
日本では“きちんと家事ができる”女性が“きちんとした人格”と、女性の人格を家事と結びつけて考えがちだ。だから女性側も、働いて疲れているのに、家事をこなせなければ「私はダメな人間なんだ」と思ってしまう。そうなると「育児と家事の両立」のハードルが高すぎると感じ、子どもを持つことに躊躇する。こうしたことも少子化につながっているのでは、と佐光さんは見る。
「子どもができたとしても、育児休暇を取ることでキャリアに遅れが出て、夫より収入が低くなる女性も多いです。すると『稼ぎが少ないほうが、家事負担が多くて当然』と夫も妻自身さえも思い込んでしまう。母親は仕事・家事・育児をきちんとこなすことに精いっぱいで、余裕がありません。そんな母親を見て育ったら、子どもたちだって結婚や子育てに否定的になりかねません。負のスパイラルに陥ってしまうのです」
また、近い将来やってくる老後にも影響が。
「家事がきちんとできて一人前という気持ちが強いと、病気やけがで、きちんと家事ができなくなったとき、『人として価値がなくなった』という気持ちにとらわれたりしますよね。こんな悲しいことはありません」
だが、こういう状態は、気持ちの持ち方で変えることができるという。夫との家事分担について、佐光さんはこう語る。
「日本人女性はまじめなので、助けを求めることに躊躇して、つい一人で抱え込んでしまう。大学院で外国人男性の同級生たちに家事分担について聞くと、『妻が料理が苦手なら、自分が作る』という意見も多かったです。夫に『苦手だから一緒にやって』と頼ってみませんか」
そのためには、妻が相手に対しての要求レベルを下げることが大事だという。
「夫がやってくれたことは自分と同じレベルではなくて当たり前。任せた以上、文句を言わないことが大切。こっそりやり直すのはもってのほかで、自分の負担が増えるだけです」
たとえば、夫が皿を洗った後、汚れが落ちていなくても、そのまま使う。夫に汚れていると指摘されたら、「そう? あなたが洗ってくれたんだけどダメだった?」と返せば、夫が洗い方を見直す可能性も。掃除も頼んでみるとよい。
「アメリカなど多くの国で、掃除は夫の分担です。力を使う場面も多いので、男性の仕事という印象があるのかも。手始めに毎日旦那さんが使うところは、お任せしてみるのはどうでしょう」
毎日、ひげをそった後に洗面台を拭いてもらう、お風呂に入った後に排水口を掃除してもらうなど、日常生活の延長線上なら、負担感も少ない。
「ただし一度にあれもこれもと分担するのではなく、少しずつ。気が付いたら分担が増えているイメージで範囲を広げていくのがコツです(笑)」