「買い物をする際、自分では得する選択をできていると考える人は多いのですが、実は8割ほどの人は、損な行動をとっているんです」

そう話すのは、年金や資産運用に詳しいオフィス・リベルタス代表の大江英樹さん。大江さんは、「行動経済学」に基づいた、資産運用から日常のお金の問題までを扱った講演に定評がある。

 

「経済学では『人間は常に利益を最大にする合理的な判断をする』とされてきましたが、実際の私たちはそうはいかないですよね。知らず知らずのうちに、不合理な選択や行動をしてしまう。その現象を扱っているのが行動経済学です。合理的でない判断の多くは、実は『損をしたくない』という強い思いからきているのです」(大江さん・以下同)

 

その事例を、私たちの日常の買い物シーンで挙げてもらうことに。今回は、私たちの習慣のどこに“損するワナ”があるのか、大江さんに解説してもらった。

 

〈1、メニューに「松・竹・梅」の選択肢がある場合、「とりあえず竹」と選択しがち〉

「“松”を選ぶのはもったいないけど、“梅”だと恥ずかしい……。7割以上の人が無難な“竹”を選びます。しかし、このような価格設定の裏には、売り手側の“竹”をいちばん売りたいという思いがある。実際に自分が欲しいと思う価値に合ったのは、松もしくは梅かもしれない。じっくり考えればわかるのに、反射的に竹に飛びついて、損をすることがあるのです」

松と梅はいわば竹の”おとり”。このようにフレーム=枠組みを変更することで価格の感じ方を変えることを「フレーミング効果」という。

 

〈2、スーパーで、レジ前の棚にある商品(ガムや小分けのチョコなど)をつい買ってしまう〉

「レジの前で、カゴには3千円分の商品が入っているとします。そこに100円前後のガムやチョコを追加しても3千100円。大した出費ではないという気持ちでしょう。ところが、入店してすぐのところに同様の商品があっても、手に取る入店者はほとんどいない。0円から100円の負担は大きく感じるのです」

年末のスーパーへの買い出しは、余計な買い物を防ぐためにも一人ではいかない方がよさそう。

 

 

〈3、通販での買い物で、「気に入らなければ返品自由」という文言が決め手になったことがある〉

「“保有効果”といって、人間には、いったん手に入れたものは手放したくないという気持ちが強く働くのです。“返品自由”と知って、気に入らなければ返せばいいという気持ちで購入し、いったん手元に届くと、なかなか返品しないものです。あまり使わないものであっても、返送にも手間がかかりますしね」

ネット通販の返品率は大体3%。テレビ通販ではこれがさらに下がるのだそう。

 

〈4、ポイントカードで、「ポイントを貯めるための買い物」を頻繁にしている〉

「どんどん貯まるポイントのシステムには前出の”保有効果”があります。これがエスカレートすると、ポイントを使うのがもったいないという心理が働き、”ポイントを貯めるために買い物をする”という本末転倒な状況に陥りかねません」

 

〈5、1足400円のソックスが、3足買えば1000円とあれば、必ず3足買ってしまう〉

「3足で1000円ということは、1足約333円。同じソックスなら400円よりお得……、という判断をしがちですが、そもそも1足400円という値段が適正なのかどうか。店側は3足で売ることを前提としていることも考えられます」

値引きや割引の値札が増える季節。その本来の値段はいくらなの? と立ち止まってみれば、買い物の失敗は減るかも。

 

ギクっとせずにはいられないことばかり。そんな私たちはどうすれば……。

「消費者にとって大切なのは『知識より常識』。売り手側の方が、私たちより商品知識があるのは当然です。そのなかで、彼らが儲けようとしているという前提=常識に沿って考えることで、見えてくることも多いはずです」

 

最後に大江さんはこうアドバイスする。

「もちろん、生活のあらゆる面で合理的な判断をしようというのはムリなこと。おいしいものが体に悪い、というのもよくあることですよね。

それでも、日常の判断における”クセ”を振り返って、気づかないうちにしていた損に気付けるようになれば、大きな損をするような事態を防ぐことにつながっていくのではないでしょうか」

直感や好みに左右されることの多い私たちの買い物。ボーナスが損な買い物に消えていくことのないよう、自分の習慣を振り返っておきたい!

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