NHKの朝ドラ『マッサン』で、妻のエリーは日本人になりきる努力をした。現代の外国人妻は自分の文化を生かしながら周りとぶつかり、新しいものを生み出す。そんなリアルマッサン夫婦を発見!
「日本の伝統的な言葉が3つあります。『メシ・フロ・ネル』。イギリスでは『アイ・ラブ・ユー』。『言わなくてもわかる』はダメですよ。亡くなってから『ありがとう』と言っておけばよかったと後悔するよりも、感謝の言葉は生きているうちに伝えましょう」
熊本県山都町で行われた法話『ふれあいまつり』でこう語ったのは、袈裟・衣を着た金髪女性、吉村ヴィクトリアさん(44)。熊本に隣接する宮崎県高千穂町、430年もの歴史ある玄武山・正念寺の坊守(住職の妻)で住職になる資格を持つ浄土真宗本願寺派の僧侶だ。
寺の第17代住職、夫・順正さん(56)とともに朝6時前には起き、家事、法務、英会話教師、2男1女の母、さらに多忙な夫に代わって法事をつとめることも。
ヴィクトリアさんはイギリス・ピーターバラ出身。大学で言語学とジェンダー学を専攻。「海外で英語教師として働きたかった。日本のことはまったく知りませんでした」と笑う。’92年、文部省のALT(外国語指導助手)として来日し、以来22年間、高千穂に在住。来日2年目、転属になった高千穂高校で国語教師をしていた順正さんと運命の出会い。2人は結婚を決意するが、両親だけでなく周囲は猛反対だった。しかし、順正さんのこの言葉が周囲の反対をはねのけた。「私たちの信じる仏教は、人を差別するんですか?」。
だが、結婚生活は決して平たんではなかった。
「何度も別れようと思った。悔し涙をいっぱい流した。でも、私には行くところがない。それ見たことかと思われるに決まっている。負けたくなかった」
結婚8年目、夫・順正さんが45歳のときにがんを発病。「夫の死も覚悟しました。彼が亡くなったら私が住職にならんといかん」。得度はしていたが、住職になるには免許が必要だ。ヴィクトリアさんは夫の看病をしながら、猛勉強して取得する。闘病生活は3年に及んだが、順正さんは快癒。
法話で人々を勇気づけ、病気の夫に代わり寺を守ってきたヴィクトリアさんには、現在取り組んでいることがある。
「お寺を中心にして町を活性化したい。町も20年前に比べて過疎化、高齢化が進んでいます」
最近は、周囲の意識も変わってきた。500人の門徒さんや地元の人々も「ヴィクトリア、よくやっているねー」と声をかけてくれる。本気で彼女が町のことを考え、すっかり溶け込んだからだ。夫婦で唱えるお経は、「息があっている」と評判がいい。順正さんは言った。
「これからも困難を乗り越えて、違う文化の人間同士でもうまくいくという、いいモデルになりたい」