「竹下通りの近くで昭和18年より前に作られた『東京府』のマークが入ったマンホールの蓋を見つけたんです。そこから未知の蓋を探す“旅”のスイッチが入ったのです」
そう語るのは、マンホール女子の山市香世さん(34)。地図製作会社に勤務する彼女がマンホールの蓋に“恋”したのは約5年前のこと。もともと路上観察マニアとして鉄塔や遊具などに興味を持っていた彼女は、マンホールの奥深い魅力に引き込まれていったという。
「マンホールの蓋は、その市や町の歴史と文化が見える扉でもあるのです。たとえば新潟県三条市の蓋には金物の工具がデザインされていました。調べてみると、水害に悩まされ、米が取れなかった江戸時代の人たちが、鍛冶職人を呼び寄せて金属加工の技術を学んだそうです。それが今の三条市の産業になっていることがわかりました。マンホールの蓋からは、町の成り立ちや記憶など、多くの情報が読み取れるのです」
蓋にその自治体独自のデザインを施すようになったのは’77年に那覇市が作った魚の模様が最初だとか。それがいま全国に広まっている。これまで北は北海道稚内市、南は福岡県福岡市まで行き、“ご当地マンホール”の写真を撮り集めてきた山市さん。今夏に出版された『厳選!デザインマンホール大図鑑』の監修者の1人に名を連ねるほどに。今でも休日は、夫と一緒に新たな蓋との出合いを求めて「下を向いて」歩き回っているそう。
そんな“マンホール女子”が必死で探しているマンホールの蓋がある。
「新潟の佐渡市内にはなぜか青森県七戸町の蓋があります。工事の都合なのでしょうか、ほかの自治体の蓋が設置されていることがごくまれにあります。私たちはそれを“越境蓋”と呼びますが、あまり騒ぎになると、取り換えられてしまうので、大きな声では言えません。実はある県の県庁の前には堂々と東京都水道局のマークが描かれた蓋があるんです。そんなレアな蓋を探す“旅”は、しばらく続きそうです」