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「成人や就職を機に保険料を支払い始め、65歳を迎えたら一定の割合で毎月支給されるのが公的年金制度。その年金には『厚生年金』と『国民年金』とがあります。『夫婦』単位で比較した場合、それぞれの働き方などの形態によって、『厚生年金』を受け取るのか、『国民年金』を受け取るのか変わってくるため、生涯で得られる額に大差が出てしまう。これがいま、“年金格差”として問題視されているんです」

 

そう話すのは、年金制度に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。会社員でも自営業でも、年金を納めているのに変わりはない。しかし、夫婦の働き方によって、年金受給額に“格差”が生まれてしまうことは、まぎれもない事実だーー。

 

「たとえば、収入がある人はすべて年収600万円で、平均余命を全うしたと仮定した場合、夫婦ともに会社員であれば、年金の総受給額は『1億384万円』となります。しかし、夫が自営業で妻が主婦であれば、年金の総受給額は『3,432万円』。比較すると、約7,000万円もの格差が生まれてしまうことになるんです」

 

受給までに支払った保険料を“支出”、もらえる年金の総額を“収入”と考え、収支を算出してみても、両者の間には4,500万円ほどの差があるのだ。

 

「自分たちの家庭がどの年金保険料をどれほど払ったのか、同じように年金をどれほど受給できるのかを把握しておくことが大事なんです」

 

そこで、加谷さんに、(1)夫:会社員×妻:会社員、(2)夫:会社員×妻:専業主婦、(3)夫:自営業×妻:自営業、(4)夫:自営業×妻:専業主婦の「夫婦の年金総額」を試算してもらった(収入がある人はすべて年収600万円。夫婦は同年齢で25歳で結婚、受給期間は平均余命より算出。夫は65歳から85歳まで、妻は65歳から89歳まで生存と仮定)。

 

(1)夫=会社員×妻=会社員

 

この場合、夫婦ともに「厚生年金」保険料(1,920万円×2)を納めることになる。

 

「すなわち、4パターンのなかでもらえる年金の総額は最大の『1億384万円』。さらに、厚生年金は支払うべき額の半分を在籍する会社が負担しますので、自己負担は少なくなります。いまの日本では、この“ダブルインカム・サラリーマン”の夫婦のスタイルが年金制度においては“最強”といえるでしょう」

 

(2)夫=会社員×妻=専業主婦

 

妻が扶養範囲で働いている場合(130万円未満の収入)、妻は夫の厚生年金に第3号被保険者として加入することができ、本人の保険料の負担をする必要がない。

 

「(1)のパターンに比べると、夫婦の総額では少ない試算になりますが、夫が亡くなったときに専業主婦がもらえる年金=『厚生年金の遺族年金』があります。これは夫が本来受け取るべきだった厚生年金の7割程度が妻に支給されるので、総年金額は『7,064万円』。納めてきた年金保険料(夫・1,920万円、妻・90万円)の3.5倍の年金が受け取れるので、一見“お得”に見えるかもしれませんね」

 

(3)夫=自営業×妻=自営業

 

自営業やフリーランスの人が加入するのは「国民年金」のみ。「厚生年金」の支払い、支給はない。

 

「夫がデザイナーで妻がプログラマーなど、近年、増加傾向にある夫婦のパターンですね。この場合、国民年金を現状では60歳まで支払い続けて(700万円×2)、65歳から支給されることになります。夫婦の総受給額は『3,432万円』となり、会社員と比べてガクンと下がっているのがわかると思います」

 

(4)夫=自営業×妻=専業主婦

 

会社員が入る厚生年金とは違い、国民年金には扶養という制度がない。そのため、自営業の妻であっても、年金保険料は同額を納める必要がある。

 

「夫婦で支払う額(700万円×2)と総受給額『3,432万円』は(3)のパターンと変わりませんが、夫婦(世帯)の総収入となると、妻に収入がない分だけ、少なくなってしまいます。貯蓄額も減ると考えれば、国民年金だけで65歳以降の夫婦の生活を送るのは厳しいでしょう」

 

日本政府は年金の支給開始を現状の65歳から68歳への引き上げに向けて着々と動いている。支給開始の引き上げと、年金の減額の両方が実施された場合、年金格差はどう変容するのか、加谷さんはこう語る。

 

「4つのパターンそれぞれ総受給額は500万〜1,000万円ほど少なくなる計算です。いずれにせよ、会社員、自営業、専業主婦を問わず、すべての世帯で『貯蓄』はもちろん、『投資』『副業で増収』などを視野に入れるべきと言える時代に突入しているんです」

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