新型コロナウイルス感染拡大の影響で、家族との時間が増えた人も多いのでは。こんなときには、家族の問題。特に’18年に法改正された「相続」について考えてみてはいかがだろう。
「相続なんてお金持ちの問題。うちには関係ない」と思う人は多いが、相続裁判の約3分の1は遺産額1,000万円以下だ。5,000万円以下まで広げると、76.3%に及ぶ(’18年・最高裁判所)。
「遺産は自宅と少しの貯金」という普通の家族が危ないのだそう。そこで、経済ジャーナリストの荻原博子さんが相続に翻弄された家族のケースを例に、「相続トラブル」を避けるための正しい知識を教えてくれたーー。
【ケース1】亡き父が連帯保証人に
〈工場を経営していた勇吉さん(77歳)が亡くなり3カ月以上たったころ、8,000万円もの借金が発覚しました。銀行から、知人の連帯保証人になっていたという知らせがあり、家族は寝耳に水でした〉
借金など「負の遺産」が大きい場合、相続全体を放棄することができます。ただし、相続放棄は、相続開始を知ってから3カ月以内に行わねばなりません。
銀行は、相続を放棄されると返済してもらえないので、あえて死後3カ月以上たってから連絡してきたのかもしれません。
また、銀行員がお葬式に参列することがありますが、これは相続人がそろっているか、確認する側面もあるようです。葬式に参列していたら、「相続開始を知らなかった」と言い逃れできませんから。
こうした事態を避けるために、連帯保証人や借金など言いづらい情報も、家族にはきちんと伝えておくことが大切です。
【ケース2】先祖伝来の自宅をどう分ける?
〈代々、都内の一等地に住む徳太郎さん(83歳)が亡くなりました。残したものは2,000万円の貯金と、時価1億円の自宅です。相続人は、徳太郎さんと同居する長男と、別に暮らす次男の2人。長男は徳太郎さんの介護に力を尽くした自負もあり、住み慣れた家から離れるつもりはありません。しかし、次男は自宅を売却して、遺産を分けろと主張しています〉
土地の相続は、相続の評価額を8割減らせる「小規模宅地等の特例」が使えます。その条件は、相続人が配偶者か、同居の親族か、同居していないが持ち家がないなどの要件を満たす親族であること。
徳太郎さんのケースでは、同居している長男が相続すると評価額は8割減で2,000万円。貯金2,000万円と合わせても基礎控除の範囲内ですから、相続税はかかりません。
ですが、きょうだい2人で相続すると、遺産総額は1億2,000万円。相続税を計算すると、それぞれ580万円、計1,160万円も必要です。次男が貯金2,000万円を受け取ることで納得すれば、相続税はゼロで済みますが、溝は深いようです。
ほかにも想定外な相続トラブルを『最強の相続』(文春新書)に集めています。相続は、親が元気なうちに、相談を始めましょう。
「女性自身」2020年5月12・19日合併号 掲載