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「有料老人ホームなどの高齢者施設でも、入居者同士の恋愛はあります。入居者の約8割が女性なので、男性の奪い合いに発展することも。みなさんとてもお元気です」

 

こう語るのは、シニアライフコンサルタントの武谷美奈子さん。高齢者の恋愛には、プラスの側面も多いという。

 

「『一緒に旅行をしよう』など目標を持つことで、リハビリへの意欲が向上する方は多いです。また、ドキドキワクワクすることで、脳も見た目も若返る。恋愛は生きる力につながります」

 

日本性科学会セクシュアリティ研究会代表で、田園調布学園大学名誉教授の荒木乳根子さんも、同様の考えだ。

 

「高齢者の恋愛に『いい年して』『汚らしい』と嫌悪感を抱く人はいます。しかし、人を好きになる感情は、何歳になっても持ち続けるものではないでしょうか。一方的な感情の押し付け、セクハラ行為は問題ですが、お互いに気持ちが通じ合うのならば、肯定的に受け止めたいものです」

 

こうした高齢者施設での恋愛は今後、より増えていくと見ているのは、夫婦問題コンサルタントでファイナンシャルプランナーの寺門美和子さん。

 

「7月に発表された厚生労働省の簡易生命表によると、女性が亡くなる年齢でもっとも多いのは92歳。仮に80歳で老人ホームに入居しても、残りの人生は10年以上。“長い余生”を、ただ生きるのではなく、人間らしく過ごすためにも、高齢者施設での恋愛は、重要なテーマとなります」

 

たしかに、今回取材した複数の介護施設職員らからも、続々とアツい話が聞こえてくる。次のエピソードでは、そんな老人ホームの恋愛事情を紹介。なお、プライバシーに配慮するため、一部脚色を行っている。

 

■ベランダをつたって決死の夜這い!

 

田舎で一人暮らしのT子さんは、認知症が進行。心配した家族が、半ば無理やり老人ホームに入居させた。しかし、知り合いもおらず、方言も通じない、孤独感から毎日のように「帰る、帰る」と脱走を繰り返す。そんな彼女を見て「すこし話しませんか」と声をかけたのがK男さんだった。

 

K男さんも地方出身者で、故郷の思い出話をするうちに、一緒に過ごす時間が増えていった。“健全な交際”のうちは周囲も応援したが、個室で逢瀬を重ねるようになると「風紀が乱れる」と、施設にクレームが……。

 

施設の職員は、個室に入らないように廊下を見張ったが、夜の巡回をすると、なぜかT子さんのベッドにK男さんが寝ている。聞けば、K男さんが決死の覚悟で、ベランダをつたってきたのだ、と。

 

「夜、不安なときも、信頼するK男さんの肌の温もりを感じると落ち着く」とT子さんはうっとり。気持ちを受け止めたホームは、お互いの家族に了解を得て、夫婦部屋を用意。2人は余生を共にしたのだった。

 

■ほかの男性入居者に嫉妬する夫への愛再燃

 

長年住んだ家を売却し、夫婦で老人ホームへ入居したS太さんとM枝さん。評判のおしどり夫婦だったが、入居を機に亀裂がーー。

 

もともと社交的なS太さんは、ほかの女性利用者によく話しかけ、車いすの女性がいれば食堂にエスコートしてあげる。そんな姿を見て、M枝さんは介護スタッフに「夫がほかの女にばかり優しくする」とぼやく。

 

ところがM枝さんにも、親しげに話しかける男性が出現。毎日M枝さんにようかんをプレゼントしている。すると、S太さんが、「俺の女に何すんだ」と、男性の頭をポカリ。ちょっとした騒ぎになったものの、嫉妬する夫を見て、M枝さんは愛を再確認したのだった。

 

■キツ〜い資産家女性が一転、恋する純情乙女に!

 

資産家の令嬢で、何一つ不自由なく生きてきたE子さん。調度品から着るものに至るまで、“超”がつくほどの高級品。だが、性格がキツく、スタッフがコミュニケーションのつもりで「このお着物、お高かったんでしょうね」と聞くだけで「なんて低俗な!」とピシャリ。

 

そんなE子さんの性格がI郎さんと出会い、大きく変わった。I郎さんは、満州やヨーロッパなど海外経験が豊富。認知症があるものの、ウイットに富んだ会話からは、時折、フランス語もこぼれる。

 

すっかり心を奪われたE子さんは、I郎さんが食堂にいると、チラチラと中の様子をうかがいながら入口で待機。彼が出てくると、偶然を装って話しかけ、共通の趣味である洋画やクラシックの話題で盛り上がる。

 

また、友人や介護スタッフに、I郎さんから「私のカワイイ嫁でねえ」と紹介されると、顔を真っ赤にして照れてしまう。

 

その結果、“扱いづらい”とスタッフに思われていたのが嘘のように、E子さんは穏やかに。失恋したら大変だと、スタッフ全員で、2人の恋を応援する毎日だ。

 

■職員へのかなわぬ恋。嫉妬のあまり刃傷沙汰に

 

口数も少なく、人を寄せつけないオーラを発していたM子さんだが、唯一の例外が、石原裕次郎似の男性スタッフK助さん。ナースコールで呼び出し、カステラやまんじゅう、1,000円札が入ったポチ袋などプレゼント攻撃をしかけた。

 

せっかくの好意だからと、K助さんはお金を受け取り、後で家族に返していた。しかし、M子さんは自分の恋心を受けとめてくれたと勘違い。

 

けれどもそんな気のないK助さんは、当然のことながらほかの女性入居者にも親切に接する。その結果、M子さんは嫉妬のあまり、大泣きしたり、その女性を仲間外れにしたり、「このあばずれ!」と暴言を吐くように。

 

そしてついに“浮気”するK助さんにも怒りの矛先が向く。「浮気しないで!」と包丁を振り回したのだ。ほかの職員になだめられ、その場は収まったものの、K助さんは別の施設に異動。以後、二度と会うことはなかったそう。

 

ほほ笑ましい恋愛エピソードだが、前出・寺門さんは、留意点もあるという。

 

「高齢者の真剣交際や結婚は、財産問題ばかりでなく、一方が先立った場合の残された側の介護、お墓問題も出てきます。恋愛は応援しつつ、事前に両家で諸問題をクリアにすることも、必要になってくるでしょう」

 

今のうちから、老親の“交際宣言”への心構えが、必要なのだ。

 

「女性自身」2020年10月20日号 掲載

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