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「自らも娘の不登校を経験した母親として何か力になれることはないかと思い、不登校訪問専門員の資格を得て、さまざまな人たちと面談してきました。能力はじゅうぶんにあるのに、“自分はひきこもりなんだから、どうせ無理”と働くことをあきらめてしまうのはもったいない。じつは、ひきこもりの状態から適職を探し当て、成功している例はたくさんあるのです」

 

そう語るのは生活経済ジャーナリストの柏木理佳さん。男女や年齢層を問わず、さまざまな世界で活躍する“元ひきこもり”の人たちへの取材をもとにした『ひきこもりは“金の卵”』(日経プレミアシリーズ)を出版した。ひきこもりは、けっして人ごとではない、と柏木さん。

 

「内閣府が行った調査によると、半年以上ひきこもり生活を続けている人は15〜39歳で推計54万人、40〜64歳で推計61万人と報告されています。つまり、子ども世代だけでなく、親世代もひきこもりになる可能性がある。しかも、その半数以上が、7年以上ひきこもり生活を続けているといいます」

 

柏木さん自身も、小学生の娘の不登校、ひきこもりと向き合ってきた。

 

「4歳で吃音がはじまり、心療内科でもなかなか改善せず、学校も嫌いなまま。ひきこもりは母親の過干渉が指摘されているため、自分を責めたりもしました」

 

柏木さんは学術書を読みあさり、一日中抱きしめたり、あえて外に出し、塾や体操教室に通わせたりするなど、さまざまな方法を試し、失敗も経験した。

 

「コロナ禍ではありますが、娘は休みながらも通学できるようになりました。試行錯誤を重ねて感じたのは、答えは一つではないということ。大人のひきこもりについても同じことが言えると思います。その人に合った生きがいを見つけるには、さまざまな職種や働き方のヒントを得ることが大事なのです」

 

自宅にいながら仕事を見つけ、年収500万円のサラリーマンと遜色ない収入を得ることも不可能ではない、と柏木さんは語る。それでは実際に、柏木さんが見てきた事例を見ていこう。

 

【1】子育ての経験を生かし、オンライン上で講師をする

 

子どもが独立し、そろそろ仕事をしたいと考えたEさん(57歳・女性)。「大卒で大企業に勤めた経験があるのだから、仕事はいくらでもある」と思っていたが、なかなか就職先は見つからない。次第に自信を失い、ひきこもりがちに。

 

「何か生かせないかと考えたときに、Eさんが行き着いたのは、3人の子どもを受験させたという子育ての経験でした。そこで小学校の学習プリントの採点を在宅ワークで開始。進路に悩む学生には、受験についてのカウンセリングなどもするようになったんです」

 

カウンセリングの仕事は30分5,000円ほどを相場にできるそう。生徒が増えれば増えるほど、収入は増えていく。

 

【2】自分のペースで適職に。訪問サービスで1対1の接客

 

「高卒でコンプレックスがあるが、医療専門学校で知識を学べばスタート地点に立てる」と考えたFさん(45歳・男性)。整骨院で働いていたが、複数の人とのコミュニケーションが苦手だった。

 

「そこで、シンプルなやりとりで済む1対1の訪問マッサージという方法にシフトチェンジ。収入は30分の施術で3,000〜5,000円程度。固定客を取って、ストレスをため込まない働き方を見つけ、充実した生活を送っています」

 

【1】と同様こちらの仕事も、固定客の数が増えるほど収入は増えていく。客1人あたり月数万円を稼ぐケースもあるそうだ。

 

【3】NPOを頼り地方へ移住。収入は少額でもゆとりある生活

 

大企業勤めだったが、上司とのあつれき、妻との離婚が重なり、ひきこもってしまったGさん(49歳・男性)。失意の中、偶然《若者移住者募集・移住手当、家賃補助あり》というチラシを目にする。

 

「GさんはNPO法人が運営する、ひきこもりの若者が共同生活を送るシェアハウスに入居しました。高齢者地区のため、仕事はレンタカーで買い物代行をしたり、粗大ゴミを出したり、電球を交換するなどの“お年寄りのなんでも屋”。人助けを通して自分の存在意義を再確認し、仕事に復帰できたケースは多くあります」

 

いわゆる“なんでも屋”の仕事は、時給900円ほどが相場。ツメツメで働くわけではないので大きな収入は見込めないが、都心で暮らしていたころより圧倒的に出費が少なく、時間的にもゆとりある生活が送れているそう。

 

いずれのケースも、自分のペースで社会に参加し、収入を得ることができている。柏木さんは最後に、“ひきこもりは決して悪ではない”と語る。

 

「ひきこもりを解決するゴールは、必ずしも外に出て働くことではありません。彼らが自分にできる仕事で、楽しく暮らせることがゴールなんです」

 

ITが発達したいま、ひきこもりを救う活躍の場所はたくさんあるのだ。

 

「女性自身」2020年11月10日号 掲載

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