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母親が35歳で産んだ子供が、22歳で4年制大学を卒業するとき、母の年齢は57歳になっている。厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計の概況」によると2019年に子供を産んだ35歳以上の女性の数は25万1,850人。1985年の10万1,970人に比べ、その数は約2.5倍だ。子供が手離れする年齢が上がるにつれ、50代になっても貯蓄をする余裕がない、という家庭が増えている。

 

「今の50代は子供がまだ中高生というご家庭も多く、教育費の支払いに追われ貯金なんてまったく無理、というケースも往々にしてあります。さらに、子供の世話だけと思っていると、親の介護まで始まることも。二つの問題に挟まれていることから、今の50代は”サンドイッチ世代”とも呼ばれます」

 

そう語るのは、FPで夫婦問題カウンセラーの寺門美和子さんだ。

 

単身者も油断できない。金融広報中央委員会が行なった「家計の金融行動に関する世論調査(平成19年以降)」によると50代単身者の貯蓄額は平均926万円だが、中央値となると54万円に。貯蓄は0というわけではないが、あるとも言い難い金額だ。このまま老後を迎えることに対し、不安がつきまとう50代。現在貯金が無い場合、どう老後資金を工面すればよいのだろうか?

 

「収入や支出の見直しも大切ですが、年金の受取額を増やせるように行動するのも重要な観点です」

 

そう語る寺門さんに、50代からでも遅くない、年金増額のポイントを聞いた。

 

■長く働くことで、年金受給開始を先延ばしに

 

「貯金が無い、という人に限らず、老後資金に余裕がある人以外は、基本的には働き続けることが重要です。働かなければ生活ができないという場合もあると思いますが、生活費を労働収入で賄うことができれば、年金受給の開始を先延ばしにすることができます」

 

年金受給の開始年齢を1カ月遅らせるごとに、年金支給額が0.7%増加。65歳から受給する老齢基礎年金を70歳まで繰下げした場合は、42%増額した金額を一生受け取ることが可能だ。老後の支出を一定として試算すると、貯金を崩してでも年金受給開始を先送りにすることで、最終的な資産額が増える場合もあるという。

 

また、できるだけ今働いている職場を辞めないことも重要だという。

 

「最近、コロナ禍でパートを辞めてしまったという主婦の話をよく耳にします。しかし、再就職は思った以上に手間がかかるので“働かなくてもなんとか暮らしていける”家庭の主婦などは『またすぐ働こう』とパートをやめても、ずるずると再就職を先延ばしにしてしまうことも多いのです」

 

働かない期間が長くなればなるほど、再就職のハードルは高くなるのだ。

 

■パート妻はできるだけ厚生年金に加入する

 

「50歳からでも厚生年金に加入してできるだけ長く働くことで、将来受け取れる老齢厚生年金の額を上乗せできます」

 

パートの場合でも、『従業員数501人以上』で、『週20時間以上勤務』『1年以上勤務の見込み』があり、『学生ではない』などの条件がそろうと、月収8万8,000円以上の場合、自分が第2号被保険者として社会保険(厚生年金と健康保険)に加入することになる。

 

「もともと第三号被保険者だった場合、夫の社会保険の扶養から外れ、保険料を自分で負担することになるので、手取り収入が下がる場合もあります。しかし、厚生年金に加入した場合、保険料の半分を会社が負担してくれます。見方によっては、自分が支払った保険料の2倍の額が支払われていることになりますし、それが給付につながります」

 

厚生年金に加入することで、手取りが減ったとしても、よほど早く亡くなってしまわない限り将来の年金額は減少分より多いリターンとなる。また、パート勤務の労働者を被用者保険(厚生年金保険、健康保険)の適用としなければならない企業規模は、現在の「501人以上」から2022年10月に「101人以上」、2024年10月に「51人以上」と段階的に引き下げられる予定だ。これによってパート社員の社会保険加入のハードルがぐっと下がるので、ぜひ活用したい。

 

■第一号被保険者なら付加年金を

 

「国民年金第一号被保険者の場合、毎月の国民年金保険料に400円の付加保険料を上乗せして納めることで、将来受給する年金額を増やせる“付加年金”の制度があります」

 

年間での上乗せ額は、200円×支払った月数。50歳からの10年間付加年金を支払った場合、年24,000円が受け取れる。60歳までに追加で支払う額は48,000円ですから、2年で元がとれることになるのだ。こちらの付加年金も、繰下げ受給による給付額アップの対象になる。

 

「使い切ったら終わりの貯金や、病気にならなければもらえない医療保険と違い、年金は死ぬまでずっと決まった金額を受け取ることができる公的な終身保険。唯一“長生きリスク”に備えられる制度と考えて良いでしょう」

 

もはや目前に迫った“老後”までに何千万円ものお金を工面するのは難しいという人は、この先できる限り長く働き続けることで“老後”を先送りにすることや、それによって受け取る年金額を少しでも加算できるように考えて行動することが重要だ。

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