■相次ぐ値上げによりすでに利用を控える人も
介護にかかるお金は当然、公的介護サービスの費用だけではない。それ以外にも、食費や施設への交通費などがかかる。そこで本誌は、介護サービスの支給限度額における自己負担が2割になった場合、介護にかかる総費用がひと月当たりどれほどになるのかを試算した。
その結果、全国に約144万人と認定者がもっとも多い「要介護1」では月1万6千765円増え、介護にかかる月の総額は6万9765円となることが明らかになった。
さらに生命保険文化センターの調査による平均的な介護期間「61.1カ月」の間、介護度が上がっていくことや、ベッドやリフォームなど一時的にかかる費用を考慮して総介護費用を試算。すると、2割負担では、これまでよりも150万円近くの負担増になることがわかった。
なお、介護サービスには、所得に応じて支払い額の上限を超えた分が還付される「高額介護サービス費制度」がある。一般的には負担限度額4万4400円を超えた分は申請すれば払い戻されるため、「要介護3」以上で2割負担になっても、自己負担額は4万4400円以上になることはないが……。
『わたしが、認知症になったら』(BOW&PARTNERS)の著書がある介護士の原川大介さんが指摘する。
「2割負担の対象拡大への反対意見を抑えるときに必ず持ち出される高額介護サービス費制度ですが、前回の介護保険制度の見直しの際に、年収770万円以上世帯では9万3000円に負担の上限額が引き上げられました。今後も負担上限額が高くなっていく可能性があります」
結城教授は、介護保険制度の“改悪”をこう危惧する。
「この物価高騰のなか、食料品や光熱費が値上がりし、介護費用が生活を圧迫してすでに利用を控えている人も少なくありません。2割負担の対象が拡大されるとさらに利用控えが増えることは確実。要介護者の認知症の症状が進んだり、身体機能が低下して要介護度が重くなったりすることもありえます。さらには家族の介護負担が増え、ストレスによる虐待や介護殺人が増える可能性も……。
介護事業者も事業収入が減り、経営が苦しくなります。2割負担の対象拡大は、介護保険制度の瓦解の始まりと言っていいでしょう」
利用者の実情を無視した制度改悪は避けてほしいものだがーー。