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(写真・神奈川新聞)

 

【時代の正体取材班=石橋 学】人種差別・排外主義を掲げる極右政治団体「日本第一党」の桜井誠(本名・高田誠)党首が相模原市内で講演した際、在日コリアンに危害を加えると宣言するヘイトスピーチを行った。ヘイトスピーチ解消法に違反し、暴力を誘発しかねない重大な人権侵害発言は、来春の統一地方選で県内に擁立する公認候補を紹介する中でなされた。政治活動に名を借りた差別扇動を防ぐ手だてが求められている。

 

講演は3月31日、日本第一党の地方組織である神奈川県本部が主催。横浜市鶴見、保土ケ谷区、相模原市中央、南、緑区で市議選に立候補予定の5人の紹介を兼ねて開かれた。

 

桜井氏は日本第一党の政策のあり方を語る中で、自らの差別的言動が原因となったヘイトスピーチ規制について触れ、「シナ人、朝鮮人は日本に対してやりたい放題やっているのに、自分たちを批判する言論を取り締まれと言う」と誹謗中傷。「ヘイトスピーチ抑止法や条例ができても、われわれが政権を取ってひっくり返せばいいだけの話。条例と法律を作った人間を必ず木の上からぶら下げる。物理的にこれをやるべきだ」と続けた。

 

ヘイトスピーチを「許されない」とする解消法の成立や川崎市などで進む条例制定の背景には、被害を訴え出た在日コリアンの存在がある。差別撤廃の取り組みとひとくくりにして標的とみなす発言は、政治団体とはほど遠い人種差別団体としての危険性、反社会性を露呈させた格好だ。

 

桜井氏はさらに「首に縄を付けられて木の上から垂らされるという恐怖があれば条例や法律を通せなかったはずだ。彼らは日本では何をやっても安全だと思い込んでいる。断固処分する意思を物理的に見せつける必要がある」と踏み込んだ。動画をインターネット上で公開し、あおられた視聴者の「朝鮮人は何やっても許されると思い上がってる」「しょせん朝鮮人なんてコジキなんでって言うか土人です」といった書き込みによって人権侵害を拡大させている。

 

桜井氏は2006年に人種差別団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)を設立。「在日には特権がある」というデマを流布させ、全国で横行するヘイトデモやヘイトクライム(憎悪犯罪)を主導してきた。2016年に在特会を衣替えして日本第一党を結成。その言動を人権侵害と認定した法務省の勧告を無視し、自身が出馬した都知事選の街頭演説や都議選の応援演説でもヘイトスピーチを繰り返している。

 

相模原市南区で出馬する中村和弘県本部長は桜井氏の差別的言動について、神奈川新聞社の取材に「そうした発言によって、日本を変えていかなければいけない部分があるのではないか」と賛同。「県内5候補とも主張は日本第一党と完全に一致している。私自身、在日特権はあると考える」と外国人生活保護廃止などの差別・排外主義政策とデマを肯定している。

 

■解説 実害防ぐ禁止条例を

 

桜井氏の「木からぶら下げる」発言は20世紀前半の米国南部で横行した、リンチを加えて虐殺した黒人の死体を見せしめに木からつるした蛮行を想起させるおぞましいものだ。標的とされた在日コリアンを恐怖に陥れ、殺されても構わない存在だと尊厳をおとしめ、地域で共に生きる仲間ではないとみなす。ヘイトスピーチ解消法は危害の告知、著しい侮蔑、地域社会からの排除の扇動という3類型から不当な差別的言動を定義するが、そのいずれにも該当する違法な発言だ。

 

「やりたい放題」というデマで敵愾心をあおり、支持を訴える手法は「在日特権」に代表される差別扇動の常套手段。人間の存在を否定し、平穏な地域社会を破壊する言動が政治活動であろうはずがない。

 

人倫にもとるだけでなく、桜井氏の発言がとりわけ許されないのは「政治」という公的な装いが差別の扇動効果を増幅させるからだ。収支報告書によると、16年の都知事選で約2千万円の寄付金が集まった。得票数は11万4千余り。公職選挙法に演説内容を縛る規定がなく、解消法にも禁止規定がないという不備を都合良く解釈し、桜井氏は選挙のたびにヘイトスピーチを繰り返す。社会的批判が高まる中、政治を装った差別扇動に差別・排外運動の生きる道と糧を見いだしている。

 

危害を加えると宣言する政治団体の候補者が街頭に立つ。そのことがすでに標的とされている在日コリアンに恐怖を抱かせるという実害を生んでいる。横浜、相模原市には、ヘイトデモによる人権侵害が繰り返されてきた川崎市同様、ヘイトスピーチ規制を含む差別禁止条例を急ぎ制定する必要性と責務が生じている。

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