(写真・神奈川新聞)

 

山北町の大野山山頂近くで、自然のまま乳牛を放牧する「山地(やまち)酪農」を志す女性が牧場を開設した。29歳の経営者、相模原市緑区出身の島崎薫さんは「山地酪農を全国に広めるのは私の役目」と意気込む。牛に負担をかけず、環境にも配慮した新たな取り組みに、地元の期待も膨らんでいる。

 

7日の開所式。富士山を見晴らす標高約700メートルの林地にある牧場には、地元の人や行政関係者ら80人ほどが集った。

 

輪の中心にいたのが島崎さん。「薫(かお)る野(の)牧場」と命名した約9ヘクタールの山の林地で、5頭の乳牛に囲まれながらの挑戦がスタートした。

 

県立相模原高校から東京農業大(北海道網走市)へ。在学中に岩手県岩泉町の中洞牧場が実践する山地酪農を知り、新たな可能性を感じた。卒業後は迷わず同牧場に飛び込んだ。

 

中洞牧場の牛は山で自由に過ごし、野芝や木の葉を食べて暮らす。1頭当たりの搾乳の量は少ないが、ストレスがなく、およそ20年の寿命をまっとうする。

 

牛が下草をはむことで、山の管理にもつながる。自然の資源を活用した「中洞方式」は、北海道や高知県などで行われているが全国的には数えるほどという。

 

そんな珍しい酪農を学んでいた島崎さんが山北町と結び付いたのは、ひょんなことから。中洞牧場を営む中洞正さん(65)のところへ、廃止された大野山の県営牧場跡地の活用について関係者が相談しに訪れた際に縁ができたという。2016年9月には一念発起して退職、町に移住した。

 

地元の手を借りながら、この1年半余りは準備に奔走。住民で組織する特別地方公共団体「財産区」から跡地を借り、自分の牧場を持つ夢を実現した。

 

乳牛は中洞牧場時代から面倒を見ている6歳の「たらちゃん」をはじめ、5頭のジャージー牛。搾乳した牛乳は自前の設備で加工する。今後は地元のカフェでソフトクリームとして販売する構想もある。

 

新規参入を指導する県畜産技術センター(海老名市本郷)によると、放牧から全量加工まで担う酪農家は県内では初。行政もこのチャレンジを応援する。

 

町は18年度一般会計予算に農業活性化推進事業を盛り込み、国の補助金年150万円(5年)が得られるよう支援する。ただ島崎さんには借入金が約1600万円ある。「12年かけて返済していくが、計画通りにいくか不安もある」と話しており、病気対策や環境の違いの克服など正念場はこれからだ。

 

それでも援軍はたくさんいる。開所式に駆け付けた師匠である中洞さんは「よくぞ頑張った」と声を詰まらせ、「転ぶこともある。転んだら起きろ。俺の背中を見ろ」とエールを送った。島崎さんは「多くの人の助けでここまできた」と笑顔で感謝し、「女性でも酪農経営ができることを証明したい」と引き締めた。

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