「コアラのマーチ」のキャラクター運営を20年以上手がけた、いとうとしこ氏の近著『売れるキャラクター戦略』(光文社新書)から裏話を紹介しよう。
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私が初めて「コアラのマーチ」のキャラクターCMを提案した当時は、「メインキャラクターには名前をつけない方がいい」とされていました。
それぞれのビスケット上のコアラの絵柄にも正式名称はありませんでした。絵柄の名称は、小・中学生女子を中心に「まゆ毛コアラ」「盲腸コアラ」などと自然発生的に名付けられ口コミで人気が出てきた歴史があったからです。
何年かの議論を経て、すべての絵柄に名前をつけることになりました。ほぼ時を同じくして、ビスケットの上の絵柄とは別に、CMに出演しているコアラのキャラクターにも名前をつける段になりました。
ブランドの名前を印象づける上でも、ここはやはり「コアラのマーチくん」しかありません。次に、CMには出ていないけれど雑誌広告には登場する女の子のキャラクターにも名前をつけることになり、音楽つながりで「ワルツちゃん」を提案し、満場一致で採用されました。
ここで裏話をします。実はコアラのマーチのアニメーションCMを最初に提案した時、コアラが1匹だけ登場する案と、3匹が登場する案をお見せしていました。
結果的には、おすすめのコアラのマーチくん一匹が登場する案が採用されてスタッフ一同喜んでいたのですが、その陰で世の中に出なかったサブキャラクターがいます。それはイケメンのメガネ男子「ロックくん」。
もちろん戦略上は、ロックくんが登場しない案で正しかったと思います。
なぜならば、コアラのマーチくんをCMデビューさせる初期の段階で、ワルツちゃんやロックくんまでがテレビCMに登場すると、マーチくんの性格やかわいさまで表現することが難しくなるからです。
そして、見る人にとっては「コアラのマーチくんのCM」ではなく、「3匹のコアラのCM」という印象がより強く残るからです。
こうして、「ロックくん」は幻のキャラとなり、「ワルツちゃん」もテレビには出ませんでした。