「今は“戦後2番目に長い景気拡大局面”だといわれます。景気の好不況を判断する指標のひとつ、『景気動向指数』(’17年8月)によると、’12年12月から57カ月間、景気拡大が続いています。’65年11月から57カ月続いた戦後2番目の『いざなぎ景気』と並ぶことが確実になりました」
こう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。確かに、企業業績は好調だ。’16年度の企業全体の収益は約75兆円と、過去最高を更新(財務省)。給料もわずかながら増えている。’16年の平均月収は約31万円6,000円。前年より0.5%の上昇だ(厚生労働省)。
「こうしたニュースを見ると、『家計が厳しいのはわが家だけ?』と不安になる方もいるでしょう。しかし実際は、多くの方が『家計は厳しい』と感じており、好景気を実感している方は少数です。日銀の調査でも、暮らし向きに前年より『ゆとりが出てきた』と答えたのは、わずか7.3%でした(’17年9月)」
景気は本当によくなっているのか? 荻原さんが解説してくれた。
「まず、給料ですが、前年より増えたのはボーナスがほとんどで、月給は0.2%しか増えていません。月給30万円のAさんは、毎月600円だけ増えた計算です。しかも、社会保険料が年々上がっています。先のAさんの厚生年金保険料は、’16年は’15年より月531円上がりました(10月分で比較)。健康保険料なども上がっていますので、給料が少し増えてもこれらで相殺されるか、マイナスになる場合もあるでしょう。’14年4月に消費税が上がりましたが、3%の増税分を補うほどの給料アップはありませんでした。そのため、世間には、『給料が上がっていない』感覚が広まっています」
冒頭で述べたように企業業績は好調だが、それでも、従業員の給料を大きく上げる企業は、あまりない。企業にとって、従業員はコストでしかないからだ。とすると、企業の利益はどうなっているのだろう?
「利益は、株主に還元されています。企業は、利益に応じた配当金などを、株主に分配しているのです。つまり、好景気の恩恵を受けているのは、株などの金融資産を大量に持つ、一部の富裕層だけです。ほか大多数の一般庶民には、厳しい状況が続いています。格差社会は現実のものであり、その格差はますます広がっています」