「全国平均で、自転車が関わる人身事故は交通事故全体の約2割。ですが埼玉県は3割と高く、自転車事故が多い県と言えます。にもかかわらず’16年の県内調査では、自転車保険の加入率は45%と半数以下にとどまっていたため、加入の義務化に踏み切りました」
そう語るのは、埼玉県・県民生活部の職員。埼玉県は今年10月、自転車保険への加入について、これまでの努力義務から義務に引き上げる条例を公布した。施行は来年4月からされる。同じく京都府でも、自転車保険の加入が義務化されることになった。
生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんは、自転車保険における都道府県の取り組みについてこう語る。
「すでに兵庫県、大阪府、鹿児島県、滋賀県などでは自転車保険加入が義務化されています。背景にあるのは、自転車事故による損害賠償額が、場合によっては“超高額”になってしまうことなんです」
日本損害保険協会のホームページによると、次のような判例が出ている。
【ケース1】賠償額9,266万円
男子高校生が自転車で歩道から車道を斜めに横断した際、対向車線から自転車で直進してきた24歳男性会社員と衝突。男性会社員には言語機能の喪失等重大な障害が残った。(’08年・東京地裁判決)
【ケース2】賠償額6,779万円
男性がペットボトル片手に下り坂を猛スピードで走行。交差点に進入した際、38歳の女性に衝突。女性は脳挫傷で3日後に死亡。(’03年・東京地裁判決)
こうした事件が後を絶たない、と柏木さんが続ける。
「とくに’13年に兵庫県で起きた事故は、自転車保険を意識させる大きな出来事だったと思います。当時小学5年生の少年が、夜間走行中、62歳女性に正面衝突。女性は頭蓋骨骨折の重傷で、一命は取り留めたものの、意識が戻らなかった。女性への損害賠償額は、9,521万円。子どもの起こした事故のため、監督責任のある母親に賠償命令が神戸地裁から下されました」
兵庫県では、全国に先駆けて’15年10月に義務化をスタートさせている。同県の県民生活局の職員に話を聞いてみた。
「交通事故件数は減っているものの、人対自転車の事故は’13年までの10年間で1.9倍増。事故に遭われた方がすみやかに賠償を受けられるためにも、保険加入義務化の声は上がっていたんです。’13年には24.3%だった加入率が、’16年に義務化してからは60%、’17年には64.7%に増えました」
先に挙げた賠償額は、現実離れした額に思えるかもしれない。しかし、自転車事故は、乗る人なら誰もが起こすリスクがあるのだ。
「朝、ぎりぎりまで子どもがぐずって保育園に急いで自転車を飛ばすママさんや、仕事帰りに夕飯の買い出しに追われる主婦でも加害者となりうるため、“まさか”に備える必要があるのです」(柏木さん)