1月16日、法務省の諮問機関「法制審議会」が民法改正案の要綱案を取りまとめた。そこで話題なのが、相続分野での大幅な見直し。なんと、妻を超優遇した改正になりそうだという。いったい何が変わるのか?レイ法律事務所の松下真由美弁護士に解説してもらった。
現行制度で夫が死亡して相続人は妻と子である場合、妻が2分の1を相続。残りの半分を、子供たちが均等に分配する。これが「法定相続分」だ。ただ持ち家はあっても預貯金が少ない場合、家を売却しなくてはならないことがある。そうして妻が退去を迫られるケースもあった。しかし新たな相続制度では「配偶者居住権」という権利を新設。この居住権を妻が選択すると、所有権がなくても家を追い出されなくなる。また居住権を選択した妻は、預貯金など他の財産の取り分も実質的に増えるという。
「夫が死亡し、妻と子1人で遺産分割するケースで考えましょう。夫の財産が、3千万円の家と5千万円の預貯金だったとします。合計8千万円を2分の1に分割するので、妻の取り分は4千万円。もし自宅に住み続けたい妻が3千万円の家を相続すると、預貯金は1千万円しかもらえませんでした。しかし3千万円の家について“妻の居住権が1千万円と算定された”と仮定してください。妻は家に住みながら3千万円の預貯金をもらえるのです」
また現行制度だと夫の両親をいくら介護してきたとしても、妻に夫の両親への相続権はなかった。しかし新制度では、妻も相続人に金銭を請求できるようになりそうだ。
「現行でも故人の財産増加や維持に貢献した人の遺産取り分を増やす『寄与分制度』がありましたが、対象者は相続人に限られていました。でも今回の変更によって、妻にも権利が認められることになります。妻が大変な介護の“対価”をきちんと請求できるようになるというのは、とても意義のあることだといえるでしょう」
だが、こうした妻の優遇には思わぬ落とし穴も。松下弁護士が次のように指摘する。
「貢献してきた妻を保護するという考えは妥当だとしても、ほぼ確実に感情のトラブルは増えるでしょう。介護をどれだけやっていたかは証明が難しい。そのため『やった、やってない』と言い合いになりがちです。まわりから『お金のために介護したのか!』と非難されることもありうるでしょう。介護を妻に任せっきりだった夫が『家族って支え合うもの。お金なんて請求するもんじゃない』と言い出して、離婚が増えることも考えられます」
現状でも『私はこんな介護したのに』と、泥沼の争いになることは多い。それを解決するための法改正だが、揉めるのは必至といえそうだ。ではどうすればトラブルを防げるのか?
「まずノートなどに“介護日記”をつけておくこと。何月何日にどんな介護をしたのか。具体的に書くことで、介護の尽力度合いを客観的に証明できます。次に介護状況をすべて証明することは難しいかもしれませんが、ケアマネージャーさんや介護ヘルパーさんとも交流しておくこと。客観的な裏付けが必要になったときに協力を仰げるかもしれません」
そして3つめに松下弁護士がオススメするのは、エンディングノートだ。
「遺言書となるとハードルが高いですが、最近はエンディングノートなども流行っているので利用するべきでしょう。法的効力はないですが、亡くなった人(被相続人)が何を考えていたか理解できる。相続人同士の感情の落としどころにもなります。エンディングノートは被相続人が生きているうちに、家族で話し合いをするためのツールにもなります。結局、普段からコミュニケーションをしっかりしておけばトラブルにはなりにくいのです」